ショパンお気に入りの調性は?
ショパン作品一覧を作成するために作った,ショパン全作品のデジタルデータベースを活用して,気になるあれやこれやを調査する企画の第2段!
前回はショパンの作品が全部で何曲なのか,正確に数え上げました。
そして,最大で277曲,最小で191曲,常識的な数え方で258曲という結果になりました。
今回は,常識的な数え方でカウントした258曲全ての調性を集計。
ショパンが作品に使用した,最もお気に入りの調性は何調なのか。
ランキング形式で発表していきます!
258曲のうち,2つの教会音楽と,3声のカノン,軍隊行進曲は調性が不明なので除外し,調性の確認できる254曲で使用されている「調」についてランキングを掲載します。
「調」についておさらい
調は全部で30
まずは,調性の基本をおさらいします。
長調 | 短調 | ||||||
前奏曲集Op.28で使われた調 | 異名同音調 | 前奏曲集Op.28で使われた調 | 異名同音調 | ||||
ハ長調 | イ短調 | ||||||
ト長調 | ホ短調 | ||||||
ニ長調 | ロ短調 | ||||||
イ長調 | 嬰ヘ短調 | ||||||
ホ長調 | 嬰ハ短調 | ||||||
ロ長調 | 変ハ長調 | 嬰ト短調 | 変イ短調 | ||||
嬰ヘ長調 | 変ト長調 | 変ホ短調 | 嬰ニ短調 | ||||
変ニ長調 | 嬰ハ長調 | 変ロ短調 | 嬰イ短調 | ||||
変イ長調 | ヘ短調 | ||||||
変ホ長調 | ハ短調 | ||||||
変ロ長調 | ト短調 | ||||||
ヘ長調 | ニ短調 |
調は,長調が12,短調が12の24ですが,異名同音調が6あるので,全部で30になります。
上の表では,前奏曲集Op.28で使用された24の調を赤文字で示しています。
バッハを尊敬していながら,平均律クラヴィーア曲集で使用された嬰ハ長調や嬰ニ短調ではなくて,変ニ長調や変ホ短調を選んでいるあたり,こだわりを感じます。
ショパンが使用しなかった調性
ショパンは,前奏曲集Op.28で使用した調以外では,変ト長調も使用しています。
しかしそれ以外の調は一度も使用していません。
変ハ長調や変イ短調や嬰イ短調は,使用されること自体がほとんどない調なので,ショパンが使用していないのも納得ですが,嬰ハ長調や嬰ニ短調の曲もなかったんですね。
ということで,ショパンが生涯で使用した調は全部で25ということになります。
25位から12位まで
順位 | 調 | 作品数 | 割合 | 例 |
12位 | 変ニ長調 | 9曲 | 3.54% | 前奏曲Op.28-15『雨だれ』 ワルツOp.64-1『小犬のワルツ(子犬のワルツ)』 エチュードOp.25-8『6度のエチュード』 ノクターンOp.27-2 子守歌 珠玉の名曲たち! |
12位 | ト長調 | 9曲 | 3.54% | 前奏曲Op.28-3 マズルカ4曲,歌曲2曲など小品ばかり |
14位 | ロ長調 | 8曲 | 3.15% | 前奏曲Op.2-11 ノクターンOp.9-3 ノクターンOp.62-1 他,マズルカ3曲など小品ばかり |
14位 | ホ短調 | 8曲 | 3.15% | 協奏曲第1番Op.11 エチュードOp.25-5 前奏曲Op.28-4 名曲が多い |
14位 | ニ長調 | 8曲 | 3.15% | 前奏曲Op.28-5 マズルカ3曲,歌曲2曲など小品ばかり |
17位 | ロ短調 | 7曲 | 2.76% | ピアノソナタ第3番Op.58 エチュードOp.25-10 前奏曲Op.28-6 スケルツォ第1番Op.20 名曲が多い |
17位 | 変ロ短調 | 7曲 | 2.76% | ピアノソナタ第2番Op.35『葬送行進曲付き』 スケルツォ第2番Op.31 前奏曲Op.28-16 ノクターンOp.9-1 名曲が多い |
17位 | イ長調 | 7曲 | 2.76% | 演奏会用アレグロOp.46 ポロネーズOp.40-1『軍隊ポロネーズ』 前奏曲Op.28-7 |
20位 | 変ト長調 | 6曲 | 2.36% | エチュードOp.10-5『黒鍵』 エチュードOp.25-9『蝶々』 即興曲第3番Op.51 ワルツOp.70-1 粒ぞろい 前奏曲集Op.28では使われませんでした。 |
20位 | 嬰ヘ短調 | 6曲 | 2.36% | ポロネーズOp.44 前奏曲Op.28-8 ノクターンOp.48-2 マズルカOp.59-3 |
22位 | ニ短調 | 5曲 | 1.97% | 前奏曲Op.28-24 主要作品は少ない |
22位 | 変ホ短調 | 5曲 | 1.97% | エチュードOp.10-6 前奏曲Op.28-14 マズルカOp.6-4 ポロネーズOp.26-2 |
24位 | 嬰ヘ長調 | 4曲 | 1.57% | 舟歌Op.60,前奏曲Op.28-13 即興曲第2番Op.36 ノクターンOP.15-2 4曲全てが生前出版 |
24位 | 嬰ト短調 | 4曲 | 1.57% | エチュードOp.25-6『3度のエチュード』 前奏曲Op.25-12 マズルカOp.33-1 粒ぞろい |
嬰ヘ長調と変ト長調は異名同音調なので,同じ調だと考えると全部で10曲となり,ランクも一気に11位となります。
当サイト管理人は,ショパンの変ニ長調が大好きなのですが,曲数は意外と少なくて驚きました。
11位から6位まで
順位 | 調 | 作品数 | 割合 | 例 |
6位 | 変ホ長調 | 13曲 | 5.12% | 華麗なる大円舞曲Op.18 ノクターンOp.9-2,Op.55-2 エチュードOp.10-11 アンダンテ・スピアナートと大ポロネーズOp.22 前奏曲Op.28-19 |
7位 | 変ロ長調 | 12曲 | 4.72% | 「ラ・チ・ダレム・ラ・マノ」による変奏曲Op.2 前奏曲Op.28-21 小品が多く,主要作品は少ない |
7位 | ハ短調 | 12曲 | 4.72% | ロンドOp.1 エチュードOp.10-12『革命』,Op.25-12『大洋』 ポロネーズOp.40-2 ピアノソナタ第1番Op.4 前奏曲Op.28-20 ノクターンOp.48-1 |
7位 | ト短調 | 12曲 | 4.72% | バラード第1番Op.23 チェロソナタOp.65 前奏曲Op.28-22 ノクターンOp.15-3,37-1 マズルカOp.24-1 三重奏曲Op.8 ポロネーズ(ショパン7才の作品) |
10位 | ヘ長調 | 11曲 | 4.33% | バラード第2番Op.38 エチュードOp.10-8,Op.25-3 前奏曲Op.28-23 ロンド・ア・ラ・マズルOp.5 ロンド・ア・ラ・クラコヴィアクOp.14 ワルツOp.34-3『猫のワルツ』 ノクタンーンOp.15-1 |
11位 | ホ長調 | 10曲 | 3.94% | スケルツォ第4番Op.54 エチュードOp.10-3『別れの曲』 前奏曲Op.28-9 ノクターンOp.62-2 |
ここまで来ると,各調とも名作・大作ばかり。
でも,変ロ長調だけ曲数が多いわりに,ぱっと目立つ作品がありませんでした。
4位!
第4位は,ヘ短調と嬰ハ短調でした!
それぞれ,15曲ずつ,作品全体の5.91%ずつに使用されています!
ヘ短調の作品
15曲中,13曲に作品番号がつけられており,主要作品ばかりです。
- マズルカOp.7-3
- エチュードOp.10-9,25-2
- 協奏曲第2番Op.21 ※大曲
- 前奏曲Op.28-18
- 幻想曲Op.49 ※大曲
- バラード第4番Op.52 ※大曲
- ノクターンOp.55-1
- マズルカOp.63-2,Op.68-4
- ワルツOp.70
- ポロネーズOp.71-3
- 歌曲「私の前から消えて!」Op.74-6
- 3つの新しいエチュードの第1番
- オクターブのカノン ※未完成
嬰ハ短調の作品
15曲中,実に14曲に作品番号がつけられており,しかも13曲は生前出版。
主要作品ばかりです。
- マズルカOp.6-2,Op.30-4,Op.41-4(多くの版ではOp.41-1となっている),Op.50-3,Op.63-3
- エチュードOp.10-4,25-7
- ポロネーズOp.26-1
- ノクターンOp.27-1
- 前奏曲Op.28-10
- スケルツォ第3番Op.39 ※大曲
- 前奏曲Op.45
- ワルツOp.64-2
- 幻想即興曲Op.66
- ノクターン『レント・コン・グラン・エスプレッシオーネ』
いよいよ3位!
いよいよベストスリーです!
第3位は・・・イ短調でした!
16曲がイ短調で書かれており,作品全体の6.30%になります!
イ短調の作品
16曲中,生前に出版された作品は8曲だけ。
木枯らしのエチュード以外は目立った作品もなく,小品ばかりです。
- マズルカOp.7-2,Op.17-4,Op.59-1,Op.67-4,Op.68-2
マズルカ『ノートルタン』『エミール・ガイヤール』 - エチュードOp.10-2,Op.25-4,Op.25-11『木枯らし』
- 前奏曲Op.28-2
- 3つの華麗なる円舞曲の第2番Op.34-2
- 歌曲「あるべきものなく」Op.74-13,歌曲「ドゥムカ」
- ワルツKK番号IVb-11
- フーガ
2位!
第2位は・・・ハ長調でした!
17曲がハ長調で書かれており,作品全体の6.69%になります!
ハ長調の作品
イ短調同様,生前に出版されたのは9曲だけで,小品がほとんどです。
- 序奏と華麗なるポロネーズOp.3
- マズルカOp.7-5(エキエル番ではOp.6-5),Op.24-2,Op.33-2(多くの版ではOp.33-3となっている),Op.56-2,Op.67-3,Op.68-1,マズルカKK番号IVb-3
- エチュードOp.10-1,Op.10-7
- ボレロOp.19
- 前奏曲Op.28-1
- 2台ピアノのためのロンドOp.73,およびそのピアノ独奏編曲版
- 歌曲「酒の歌」Op.74-4
- ワルツVb-3,Vb-8 ※2曲とも失われた作品
1位に輝いたのは・・・
ショパンは,254もの作品に様々な調を用いています。
ショパンが作曲に使用した調は全部で25。
そのうち,最も多くの作品に使われていた調は・・・
変イ長調でした!
2位以下を大きく突き放し,なんと,28曲もの作品が変イ長調で書かれています!
これは,作品全体の実に11.02%を占めます!
しかも,そのうち20曲には作品番号がつけられており,18曲が生前に出版されています。
変イ長調の作品
- マズルカOp.7-4,Op.17-3,Op.24-3,Op.41-3(多くの版ではOp.41-4となっています),Op.50-2,Op.59-2
- エチュードOp.10-10,Op.25-1『「エオリアンのハープ』『牧童』
- 前奏曲Op.28-17
- 即興曲第1番Op.29
- ノクターンOp.32-2
- 3つの華麗なる円舞曲の第1番Op34-1
- ワルツOp.42
- タランテラOp.43
- バラード3番Op.47 ※大曲
- ポロネーズOp.53『英雄ポロネーズ』 ※大曲
- 幻想ポロネーズOp.61 ※大曲
- ワルツOp.64-3
- ワルツOp.69-1『別れのワルツ』
- 歌曲「つわもの」Op.74-10
- 3つの新しいエチュードの第2番
- ポロネーズ ※ショパン11才の作品。自筆譜の残る最も初期の作品。
- ワルツKK番号IVa-13
- マズルカKK番号IVb-4
- 前奏曲KK番号IVb-7
- ギャロップ・マルキ
- ワルツKK番号Vb-4,Vb-5 ※2曲とも失われた作品
小品から大作まで,珠玉の名作が並びます。
《当サイト管理人も驚きの結果》
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変イ長調の作品がこんなに多かったことや,こんなにも偏って,突出して11%もの作品に使われている調があったことなど,集計してみてはじめて気が付き驚きました!
今回は以上!