2021.09.19 ショパン作品一覧【ワルツ全27曲】を公開しました!

ショパンの装飾音02~長いトリル~

装飾音
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ショパンの長いトリル~記譜法と奏法~

長いトリルの基本形

記譜法

正しい奏法

間違えた弾き方

ショパンがよく使った記譜法です。

そして,楽譜に記譜された通りに直感的に弾いてしまうと,ショパンが意図したものとは違う演奏になってしまうため,意識して正しい奏法を心がけないといけません

前打音のように見える音符は,前打音ではありません!

前打音のように見える音符は,前打音ではありません
トリルを,補助音(上の音)から弾き始めるのではなく,主音(下の音)から弾き始めることを明確に示すためにつけられている音符です。

これは,プロの演奏家でも間違えて弾いている人のほうが多いぐらいで,
大好きなピアニストの演奏や,お気に入りの録音などで,繰り返し聴いてきた演奏が間違っている可能性もあります。

前打音ありの間違えた演奏に聴き慣れてしまっていたり,弾き慣れてしまっている場合は,大変ですが矯正していきましょう。

英雄ポロネーズの解説の記事でも書きましたが,かくいう当サイト管理人も,大好きなホロヴィッツが,英雄ポロネーズの演奏で前打音ありのトリルを弾いている演奏を繰り返し聴いていました。

そのため,それが当たり前になってしまい,疑問に感じることもなく,前打音ありの演奏を繰り返して,前打音ありのトリルを身体で覚えてしまっていました。

この音符が前打音ではないことを知ったあとも,身体が勝手に前打音を弾いてしまうので,このクセを矯正するのに随分苦労しました。

ショパンにとって,装飾音は”歌うように”旋律を奏でるための手段であったことを思い出しましょう。
トリルは,ビブラートのように音を長く伸ばすためのものです。
前打音ありのトリルを声に出して歌ってみれば,いかにおかしな奏法であるのか,理解できるでしょう。

トリルは,拍と同時に弾き始める

前打音のようなものが書き込まれていますが,これは前打音ではありません。
先取りせずに,拍と同時に弾き始めましょう。
※そもそも,前打音だったとしても,ショパンの作品では拍と同時に演奏されます。

補助音から弾き始めるトリル

記譜法

正しい奏法

間違えた弾き方

これも間違えた演奏を頻繁に耳にします。

拍と同時に補助音からトリルを弾くのが正解です。

その他

記譜法

正しい奏法

間違えた弾き方

トリルに前打音や複前打音,スライドのようなものがついている場合は,とにかく拍と同時に弾き始めれば間違いありません

間違えた演奏が世にあふれています。間違えた演奏を手本にしてしまわないように注意が必要です。

前打音のようなものがついていないトリル

記譜法

正しい奏法

ショパンは,長いトリルを書き込むときには,たいてい前打音のようなものをつけて,どの音から弾き始めるのかをはっきり指示していました。

しかし,その指示が書かれていない場合があります。

主音(下の音)から弾き始めるべきなのか,補助音(上の音)から弾き始めるべきなのかが問題になります。

主音から弾き始めるのが良いと思います!

当サイト管理人は,ショパンが何も指示を書き込んでいないトリルは,主音(下の音)から弾き始めるのが良いと考えています。

  1. 理由1
    歌手が肉声でロングトーンを歌うときは,やや低いピッチから入って,音程を下から上に上げるようにして歌い出すのが普通(いわゆる”しゃくり”)。
  2. 理由2
    ショパンは,下がってから上がる旋律ではなく,上がってから下がる旋律を好んだ。
    ※別記事ショパンの装飾音01~ショパンの旋律の特徴~で詳しく解説済みです。
  3. 理由3
    短いトリル(上がってから下がる)を多用していたショパンですが,モルデント(下がってから上がる)はまったく使っていない。
  4. 理由4
    「主要音から始まるトリルは私が発明した」と言っていたフンメルと,18才のショパンは会っており,フンメルの演奏を聴いたショパンは,それ以来,フンメルに傾倒するようになった。

ただし,補助音からトリルを弾いても,歌うような旋律の美しさが壊れてしまうことはありません。
補助音から弾き始めても問題ないと思います。

ショパンは,開始の音を指定しておかないと問題があるときには,前打音のような音符で指示が書き込んでいますので,
どちらでも問題ないときは,演奏者の裁量にまかせてあえて指示を書き込まなかったのかもしれません。

ミクリの証言

ポーランド人のピアニスト・指揮者・作曲家・音楽教師です。
ショパンの弟子の一人で,助手も務めました。

1879年に,「ミクリ版」と呼ばれる,ショパンの校訂譜を出版しています。

ショパンの弟子の一人,カール・ミクリが,ショパンのトリルについて「ショパンは通常,これを補助音から始めた」との言葉をのこしています。

ショパンに直接指導を受けたピアニストの言葉ですから,無視できません。

たしか,サン=サーンスも,ショパンのトリルは補助音から始めるべきだ,という証言をしていたと記憶していますが,このことが載っている文献を見つけることができませんでした。
当サイト管理人が所有している本のどこかに載っているはずなのですが・・・
紙の情報は検索ができないから不便ですね。

しかし,当サイト管理人は,上で述べている通り,やはり主音から始めるのが良い,と考えます

今後も作品解説などでは,当サイトでは,特に指定のないトリルは主音から始めるべきだ,という考え方で,作品を分析・解説していきます!

トリルをターンで終わらせる場合

記譜法

奏法

このように,ショパンがトリルをターンで終わらせる場合は,楽譜に明記しています。
なので,ショパンがターンを指定いないときは,次のように,ターンなしでそのまま次の音に繋げることになります。

ターンがついていないとき

記譜法

奏法

これも,プロの演奏家でも特に意識せずターンをつけて弾いていることが多いので,要注意です。

前打音(のようなもの)とターンの組み合わせ

記譜法

奏法

ショパンが多用したパターンです。

拍と同時に始めるのがポイントです!

トリルのあと音が遠くへ飛ぶとき

記譜法

奏法

これは,伝統的な奏法ではありませんが,当サイト管理人がよく使っている弾き方です。

トリルの後に,音域広く旋律が飛んでいる場合は,ターンを入れるというよりも,次の音の複前打音として,次の拍の頭と同時に弾くことで,”しゃくり(ベンドアップ)”の効果が生まれて,より”歌うような”演奏になります

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ショパンの作品の中に長いトリルが使われている例

実際にショパンの作品の中で使われている長いトリルをいくつか見ていきましょう。

ピアノソナタ第3番Op.58

ピアノソナタ第3番ロ短調Op.58の第1楽章より。

ショパン自筆譜
主音からトリルを始めるように明示されている。

正しい奏法

間違った弾き方
A♯の音がしつこく響いて耳障り

間違った弾き方
多くの演奏家がやってしまっている間違い

試しに補助音からトリルを弾いてみるとわかりますが,A♭(嬰イ)の音がしつこく響いて非常に耳障りな演奏になってしまいます。

このように,トリルの開始音を間違えたときに酷い結果となる場合は,ショパンはどちらの音からトリルを開始するのかほとんどの場合で明示しています。
このショパンの心遣いを前打音だと勘違いして弾いているのを聴くと悲しくなります・・・

自筆譜の2拍目ですが,3連符の上で旋律を奏でるときのショパンの特徴が示されています(これは後日別の記事にまとめます)。
右手旋律のG♯を,左手伴奏のC♯とF♯の間に入れて,右手旋律の16音符のF♯を左手伴奏のEと同時に弾くことを示してしることに注目しておきましょう。

ノクターンOp.62-1 68小節目

自筆譜

正しい奏法

トリルが長く続く場面です。

正しい奏法で演奏されると,天上の美しさとなります。

マズルカOp.30-4

嬰ハ短調の曲中で,突然A♯の音からトリルを始めると,あまりにも衝撃が強すぎます。

ここでも,演奏者が間違えないように,ショパンが開始音を明示しています。

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ショパンの長いトリル~まとめ~

  • 前打音のように見える音符は前打音ではない!
  • 拍と同時に弾き始める!
    • 前打音や複前打音のようなものがついているときも,それら全て拍と同時に弾き始めます。
  • トリルの終わりにターンがないときは,ターンをつけない!

今回は以上です!

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