最終更新;2022.05.14 You Tube に スケルツォ第4番 ホ長調 Op.54 の参考演奏動画を公開しました!

ショパン 練習曲(エチュード) Op.10-11 変ホ長調

エチュード
しょくぱん
しょくぱん

ショパンの練習曲Op.10-11の解説記事です。

しょくぱん
しょくぱん

当サイト管理人,林 秀樹の演奏動画です。
自筆譜や写譜,原典版などをご覧いただきながら演奏を楽しんでいただけるようにしています
できるだけ原典に忠実な演奏を心がけています
アマチュアピアニストの演奏なので至らぬ点もたくさんあると思いますがご容赦ください!
*2021年5月録音

◇Op.10-11単独再生

◇Op.10 12曲連続再生

◇Op.25 12曲連続再生

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  1. ショパン 練習曲(エチュード) Op.10-11 概要
    1. ピアノにおけるアルペッジョ奏法の真価を示した作品
    2. Op.10-11の練習課題
    3. Op.10-11 運指
    4. 作曲時に使用していたピアノ
    5. 作品番号,調性,作曲年
      1. 人気曲が多いショパンの “変ホ長調”
      2. Op.10とOp.25,全24曲の調性と作曲年の一覧表
    6. メトロノームによるテンポ指定
    7. ショパンが記譜した発想記号・速度記号
      1. 冒頭に強弱記号がない
      2. dolce
    8. ゴドフスキー『ショパンのエチュードによる53の練習曲』
      1. Study in A major (left hand only)
      2. Op.10-11 と Op.25-3 の同時演奏!
  2. ショパン 練習曲(エチュード)Op.10-11 原典資料
    1. ショパンの自筆譜
    2. 信頼できる原典資料~フランス初版~
    3. 他の初版
      1. ドイツ初版
      2. イギリス初版
    4. ショパンの生徒がレッスンで使用していたフランス初版
  3. ショパン 練習曲(エチュード)Op.10-11 構成
    1. 分かりやすい三部形式
  4. ショパン 練習曲(エチュード)Op.10-11 出版譜によく見られる間違い
    1. 音の違い
    2. 46小節目 ショパンが生徒の楽譜に書き込んだ修正
      1. 52~53小節目 8vaの開始位置
  5. ショパン 練習曲(エチュード)Op.10-11 自筆譜を詳しく見てみよう!
    1. ショパン自筆の清書原稿
      1. 全景
      2. 冒頭
      3. 10~15小節目 記譜の省略
      4. 訂正の跡
        1. 24小節目 丁寧に削り取った修正跡
        2. 50小節目 大幅な修正の跡
    2. 生徒の楽譜へのショパン自身の書き込み
      1. カミーユ・デュポワの使っていたフランス版の第三版
        1. 34小節目,38小節目
        2. 46小節目 3連符への書き換え
        3. フランス初版の間違いを訂正する書き込み
  6. ショパン 練習曲(エチュード)Op.10-11 演奏の注意点
    1. 遅いテンポでも楽しめる作品
    2. 正しい奏法で反復訓練
    3. 両手アルペッジョの奏法
    4. アルペッジョ+前打音 の奏法
    5. アルペッジョは軽くcrescendo
    6. 広い音程は時間をかけて弾く
    7. 脱力
    8. “疲れない” 遅いテンポでゆっくり練習
    9. 手首を回転しすぎない
    10. 音色 ≒ 音の大きさのバランス
    11. 旋律が浮かび上がるように 音量をコントロール
    12. ダンパーペダルとの協同が不可欠
    13. 最後の8va
    14. 冒頭 強弱記号なし→pで良い
    15. 強弱の変化は「ほどほど」に
  7. ショパン 練習曲(エチュード)Op.10-11 実際の演奏
    1. 当サイト管理人 林 秀樹の演奏です。2021年5月録音

ショパン 練習曲(エチュード) Op.10-11 概要

ピアノにおけるアルペッジョ奏法の真価を示した作品

ショパン Op.10-11 フランス初版
ショパン Op.10-11 フランス初版
アルカン “短調による12の練習曲” 第12番『イソップの饗宴』の第25変奏
アルカン “短調による12の練習曲” 第12番『イソップの饗宴』の第25変奏

広い音程の両手アルペッジョが延々と繰り返されるという型破りな作品です。
この曲の譜面を初めてみた人々は驚いたことでしょう。

一見,その譜面からは粗野で乱暴な音楽が想像されます。
両手アルペッジョで広い音程の和音を繰り返すというのは,例えばアルカンの『イソップの饗宴』のように迫力ある大音響を鳴り響かせるために使われるのが普通でしょう。

しかしOp.10-11を実際に演奏してみると,いかにもショパンらしいこの上なく優美で繊細な美しい音楽が奏でられ 驚かされます。

ショパンは暴力的な大音響を響かせるためではなく,やわらかく心地よい和音を響かせるためにアルペッジョを用いているのです。

たくさんの音を同時に打鍵するよりも,下から順番に音を鳴らす方が それぞれの音が際立って聞こえます。
そして一つひとつの音が脳内で組み合わされたときに,より鮮明に豊かな響きとなります。

アルペッジョにより,ピアノの打撃音がやわらぎ,やわらかく表情に富んだ甘く切ない和音が心地よく響くのです。
Op.10-11は ピアノという楽器におけるアルペッジョ奏法の真価を示した意義深い作品です。

海外では ‘Arpeggio'(アルペッジョ)と呼ばれています。
アルペッジョの讃歌というべきOp.10-11にふさわしい愛称ですね。

ショパンの “両手アルペッジョ” は奏法が重要です。
「演奏の注意点」の項目で解説します。

Op.10-11の練習課題

Op.10-11の練習課題

ショパン 練習曲(エチュード) Op.10-11 変ホ長調
両手の平の拡張。脱力と柔軟性。ペダルの踏み変え。各指の音色的独立。

表面上はアルペッジョの練習曲なのですが,Op.10-11のように広い音程のアルペッジョが延々と繰り返されるような場面は,Op.10-11以外の作品ではほとんど例がありません。

両手アルペッジョが延々と繰り返されるような特殊な状況を訓練しても,他の作品で生かされることなどなさそうに思えます。

しかしOp.10-11を練習することで,両手の手のひらが大きくやわらかく広がります。
また,ずっと大きく手を広げているため,少しでも力んでしまうとすぐに疲労がたまってしまいます。
最後まで安定した美しい和音を響かせるためには “脱力” が欠かせません。

Op.10-11は単にアルペッジョの奏法を訓練するためだけの作品ではなく,ピアノ演奏の素養となる 両手のひらの拡張と脱力・柔軟性を訓練するための練習曲なのです。

Op.10-11 運指

ショパンの運指の研究にもエキエル版が便利!

ショパンの指づかい(運指法)を研究するときにもエキエル版が重宝します。

ショパン 練習曲(エチュード) Op.10-11 変ホ長調

エキエル版では

  • ショパン自身が初版譜に記譜した指づかいは太字
  • 編集者(エキエル氏)が追加提案した指づかいは斜体
  • ショパンが生徒のレッスン譜に書き込んだ指づかいは(太字)

というふうに明示されていて,めちゃくちゃ便利です!

しょくぱん
しょくぱん

エキエル版ですが,2021年5月より日本語版が順次発売されています!
2021年秋 2022年には,練習曲集の日本語版が発売になるようです!

ショパン 練習曲(エチュード) Op.10-11 変ホ長調

ショパンはいつも,運指も丁寧に記譜していました。
しかしOp.10-11は両手アルペッジョのみで構成されていて,両手アルペッジョの運指は自明のため,指遣いはほとんど書かれていません。

唯一,9小節目の最初の和音のみ「1-2-5」の指遣いが書き込まれています。

エキエル版ではショパン自身が書き込んだ運指は太字,編集者(エキエル氏)による運指は細字で印刷されているため,重宝します。

作曲時に使用していたピアノ

Op.10-11は,Op.10-8,Op.10-9,Op.10-10とともに,練習曲集の中では最初期に作曲された作品です。
ポーランド時代の作品で,ウィーン式アクションのピアノで作曲されました。

Op.10-11を現代ピアノで演奏すると,うまく脱力ができていても腕が疲れます。
手を大きく開いたまま弾き続けるため,どうしても腕に疲労がたまってしまいます。

現代ピアノの3分の1の力で音が鳴ったというウィーン式アクションのピアノならば,随分と楽に演奏ができたのではないかと思います。
ウィーン式アクションの明るくクリアな音色により,アルペッジョが輝くように鳴り響いたことでしょう。

ショパンの作品は,手を緩く開いた自然な状態で,指の腹で打鍵する(いわゆる重力奏法)のが定石ですが,
ウィーン式アクションのピアノで作曲されたOp.10-11は,手を丸めて指先で打鍵する(いわゆるハイフィンガー奏法)方が弾きやすいかもしれません。

立てた指が奏でるクリアな音の方が曲想にもあっていると思います。

作品番号,調性,作曲年

ショパンが練習曲集を作曲したときの時代背景は,以下の解説記事をご覧ください。
*ショパンが練習曲集を作曲したのは主にパリ時代になります。

Op.10-8,Op.10-9,Op.10-10,Op.10-11の4曲は,1829年の10月~11月に作曲されたと考えられています。
練習曲集の中では最初期に作曲された作品です。

前年1828年の9月には初めての国外旅行を経験しています。このときはベルリンに2週間滞在しました。

1829年,19才の春には,コンスタンツィア・グラトコフスカへのつつましい初恋を経験しています。
奥ゆかしいショパンは,思いを伝えることもなく,ひそかに思い焦がれる日々を送りますが,その思いは作品の中に昇華されています。

その代表がピアノ協奏曲Op.21の第二楽章 Larghetto ,そしてピアノ協奏曲Op.11の第二楽章 Romanze, Larghetto です。

1829年の8月には,芸術の都,憧れのウィーンへ演奏旅行に出ています。

ウィーンでは2回の演奏会を行い,大好評で華やかなデヴューを飾りました。
ウィーンの演奏会での成功が自信となり,ショパンは音楽家としての成功を確信しました。

1830年3月にはワルシャワで2回の演奏会を開き,絶賛を浴びます。曲目はピアノ協奏曲第二番ヘ短調Op.21でした。

8月にはショパン生誕の地である ジェラゾヴァ・ヴォーラで過ごしています。毎年,夏にはポーランドの田園で過ごし,ポーランドの民族音楽・民族舞踊,ポーランド農民の生活に親しんで来ましたが,それも これが最後となりました。

10月にはワルシャワで告別演奏会を開きます。曲目はピアノ協奏曲第一番ホ短調Op.11で,コンスタンツィアも賛助出演しています。

そして,11月2日にはワルシャワを発ちウィーンへ向かいます。このときコンスタンツィアに会いにいき,手帳に詩を書いてもらっていますが 最後まで思いを告げることなく旅立っています。

Op.10-11が作曲されたのはちょうどこの時期になります。

しょくぱん
しょくぱん

コンスタンツィア・グラトコフスカへの初恋は捏造である,という説もあります。

興味がある方はショパンの手紙 20才 ~ウィーン到着の直前まで~をご覧ください。

人気曲が多いショパンの “変ホ長調”

ショパンが遺した作品258曲のうち,調性が確認できるのは254曲です。
その254曲のうちの13曲,5.12%が変ホ長調で書かれています。

この13曲のうち7曲はショパンの生前に出版されています。

  1. ノクターンOp.9-2
  2. エチュードOp.10-11
  3. ロンドOp.16
  4. 華麗なる大円舞曲Op.18
  5. ピアノとオーケストラのための「アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ」Op.22
  6. 24の前奏曲集第19番Op.28-19
  7. ノクターンOp.55-2

ノクターンOp.9-2,華麗なる大円舞曲Op.18,アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズOp.22など,プロデビュー直後に出版された人気曲が並びます。

エチュードOp.10-11もそんな変ホ長調で書かれています。

Op.10とOp.25,全24曲の調性と作曲年の一覧表

ウィーン式アクションのピアノで作曲されたであろう作品は青太字に,
イギリス式アクションのピアノで作曲されたであろう作品は緑太字で表示しています。

しょくぱん
しょくぱん

表のヘッダー「作曲年」または「BI」をクリックして並び替えてご覧いただくと,

ショパンがエチュードを作曲した順番に並び替えることができます!

No.Op.-BI調性作曲年19才20才21才22才24才25才26才
110159ハ長調1830年20才
210259イ短調1830年20才
310374ホ長調1832年22才
410475嬰ハ短調1832年22才
510557変ト長調1830年20才
610657変ホ短調1830年20才
710768ハ長調1832年22才
810842ヘ長調1829年19才
910942ヘ短調1829年19才
10101042変イ長調1829年19才
11101142変ホ長調1829年19才
12101267ハ短調1831年21才
13251104変イ長調1835年25才
1425297ヘ短調1835年25才
1525399ヘ長調1835年25才
1625478イ短調1832年22才
1725578ホ短調1832年22才
1825678嬰ト短調1832年22才
1925798嬰ハ短調1836年26才
2025878変ニ長調1832年22才
2125978変ト長調1832年22才
22251078ロ短調1832年22才
23251183イ短調1834年24才
24251299ハ短調1835年25才

メトロノームによるテンポ指定

ショパン エチュード【ショパンが指定したテンポ】の解説記事では,ショパンが指定したテンポについて詳細をまとめています。

ショパン 練習曲(エチュード) Op.10-11 変ホ長調

ショパンの練習曲集では,自筆譜,校訂,初版の出版と段階を経る際に,テンポが修正されている場合があります。
特に練習曲集Op.10では多くの作品で,熟考を重ねてテンポを変更していた変遷が確認されています。

しかしOp.10-11ではショパンの自筆譜も,最終的に出版されたフランス初版も,ショパンが指定したテンポはショパン 練習曲(エチュード) Op.10-11 変ホ長調となっています。

ショパンがとてつもなく速いテンポの指定をしている練習曲集の中にあって,Op.10-11のテンポ指定はショパン 練習曲(エチュード) Op.10-11 変ホ長調という抑えられたものになっています。

これは構成要素である8分音符を1分間あたり152回,1秒間あたり約2.53回打鍵するテンポで,1小節は約2.37秒で演奏されるテンポです。

Op10-1やOp.10-4,Op.10-8のように,1小節がたったの約1.36秒で演奏されてしまうような超高速のテンポと比べると,おとなしいテンポの指定です。

Op.10-11は広い音程のアルペッジョを繰り返すため,このテンポでもミスタッチなく演奏するのはかなり大変です。

Op.10-11は考えなしに譜面通り音を鳴らしても和音が美しく響きません。
和音を構成している音それぞれに最適な音色(≒音量)を与え続けなければならず,優美・繊細に音楽を奏でるためにはショパン 練習曲(エチュード) Op.10-11 変ホ長調というテンポは限界の速さです。

そのため,実際はショパン指定のテンポよりもやや遅く演奏されることも多いです。
Op.10-11の優美な曲想と,やや遅いテンポとの相性も良いため,遅いテンポでの演奏も一般に認められています。

当サイト管理人は,ショパンの意図に忠実な演奏のためには,Op.10-11もショパン指定のテンポで演奏するべきだと考えています。

当サイト管理人が ショパン指定のテンポでの参考演奏動画を公開していますので,ぜひお聴きください!

ショパンが記譜した発想記号・速度記号

ショパン エチュード【ショパンが記譜した演奏指示】の解説記事では,ショパンが練習曲集に記譜した演奏指示をまとめています。

ショパン 練習曲(エチュード) Op.10-11 変ホ長調

冒頭に強弱記号がない

ショパン 練習曲(エチュード) Op.10-11 変ホ長調

練習曲集Op.10では フランス初版の出版にショパン自身が深く関わっているため,フランス初版はショパンの意図が反映された最終的な決定稿だと考えられます。

フランス初版の冒頭にはフォルツァンドと書かれているだけで,強弱記号は書かれていません。
これは他初版,ドイツ初版とイギリス初版も同様です。

しかし自筆譜をみると,フォルツァンドではなくフォルツァンドピアノと書かれているように見えます。

エキエル版ではショパン 練習曲(エチュード) Op.10-11 変ホ長調というように,最終的に消されてしまったピアノも( )付きで印刷されています。
エキエル版は本当に素晴らしいですね。

Op.10-11は他にも,自筆譜には書かれていたものの,フランス初版では削除されてしまった強弱記号がいくつかあり,エキエル版では全て( )付きで示されています。

当サイト管理人は,冒頭はピアノで演奏するのがちょうど良いと思います。

曲中,何度か強弱記号が書かれていますが,ウィーン式アクションのピアノで作曲された作品なので,現代ピアノで想像するようなダイナミックレンジの大きい強弱の変化は想定されていません。

曲の中程にピアニシモが書かれています。
中期以降のショパンにとっては,ピアニシモは滅多に使うことのない,特別な指示になります。

しかしポーランド時代の作品はウィーン式アクションのピアノで作曲されているため,
これも現代ピアノで想像されるようなピアニッシモは想定されていません。

dolce

25小節目にdolce;甘く。愛らしく。柔らかに。が,
28小節目にはdolcissimo;極めて甘く。極めて柔和に。極めて愛らしく。が書かれています。

ショパンの作品では,特に指示がなくても甘く柔らかく演奏するのが当然ですが,
Op.10-11ではより一層,甘く柔らかい演奏が求められています。

ゴドフスキー『ショパンのエチュードによる53の練習曲』

Study in A major (left hand only)

ショパン 練習曲(エチュード) Op.10-11 変ホ長調

ゴドフスキーはOp.10-11でも「左手のみ」の編曲を書いています。

譜面にはアルペッジョの記号は書かれていませんが,広い音域を左手のみで演奏するため,必然的にアルペッジョで演奏することになります。

つまりは原曲と全く同じアルペッジョの繰り返しで,かつ,左手しか使わないため原曲よりは音域が狭く 音の厚みが薄くなっています。
ゴドフスキーの編曲の中では面白みに欠ける編曲です。

Op.10-11 と Op.25-3 の同時演奏!

ショパン 練習曲(エチュード) Op.10-11 変ホ長調

ゴドフスキーはショパンのエチュードを原曲に53曲の編曲を書いていて「ショパンのエチュードによる53の練習曲」としてまとめられています。

そして曲集の最後,52曲目と53曲目は ショパンのエチュードを2曲同時に演奏する編曲となっています。

52曲目はOp.10-5『黒鍵』とOp.25-9『蝶々』という人気曲2曲を同時に演奏する編曲となっていました。
こちらは『黒鍵のエチュード』の解説記事でご紹介していますので,よければこちらもご覧ください。

そして曲集の最後,53曲目はOp.10-11とOp.25-3を同時に演奏する編曲となっています。

52曲目と比べると地味な2曲の組み合わせなので,作られた編曲も控えめで目立たない出来上がりになっています。

地味で目立ない編曲ですが,ショパンの原曲のもつ優美で繊細な叙情性は失われておらず,美しい編曲です。
ただし,演奏効果の割に難易度が高いので 練習する気持ちに中々なれない編曲です。

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ショパン 練習曲(エチュード)Op.10-11 原典資料

ショパン エチュード【原典資料】の解説記事では,ショパンの練習曲集全体の,初版や自筆譜,写譜などの原典資料について詳細をまとめています。

ショパンの自筆譜

ショパン 練習曲(エチュード) Op.10-11 変ホ長調

フランス初版の原稿として ショパン自身の手によって書かれた清書を,ストックホルムの音楽文化振興財団が所蔵しています。

詳しくは『自筆譜を詳しく見てみよう!』の項をご覧ください。

信頼できる原典資料~フランス初版~

パリ,M.Schlesinger(M.シュレサンジュ),1833年6月出版

めずらしく,ショパンは校正にしっかりと関わっています。

この頃のショパンは,パリなどヨーロッパの主要都市でデビューしたばかりの新人作曲家でした。
後年のように友人に任せっきりにするのではなく,ショパン自身が校正にちゃんと関わっていました。

練習曲集Op.10のフランス初版は,信頼できる一次資料です。

他の初版

ドイツ初版

ライプツィヒ,F.Kistner(F.キストナー),1833年8月出版
フランス初版の校正刷り(ゲラ刷り)をもとに作られています。

いつも勝手な判断で譜面を変えてしまい,しかも「原典版」として後世の出版譜に多大な影響を与えているドイツ初版ですが,Op.10-11でも大きな間違いを後世の出版譜にのこしてしまっています。

ショパン 練習曲(エチュード) Op.10-11 変ホ長調

曲の最後,52~53小節目ですが,ドイツ初版は恣意的に1オクターブ上を弾くように書き換えてしまっています。

この間違いは現在でも多くの出版譜に受け継がれてしまっていて,プロの演奏家でもこれが正しいと思い込んでしまっているピアニストがほとんどです。
世界中にあふれる録音のほとんどが,この間違った楽譜に従って演奏されています。

当サイト管理人は,エキエル版が普及し,ショパンの原典通りの演奏が当たり前になることを願っています。

イギリス初版

ロンドン,Wessel & C°(C.ウェッセル),1833年8月出版
フランス初版をもとに作られています。

原典資料としてはあまり価値がありません。

ショパンの生徒がレッスンで使用していたフランス初版

ショパンの生徒がレッスンで使用していたフランス初版が3種類現存しています。

  • カミーユ・デュポワが使用していたフランス初版(フランス版の第三版)
    パリのフランス国立図書館所蔵
  • ジェーン・スターリングが使用していたフランス初版(フランス版の第二版)
    パリのフランス国立図書館所蔵
  • ショパンの姉,ルドヴィカが使用していたフランス初版(フランス版の第三版)
    ワルシャワのショパン協会所蔵

カミーユ・デュポワが使用していた楽譜のOp.10-11のページには ショパン自筆の書き込みが多数遺されています。

ジェーン・スターリング,ルドヴィカのレッスン譜のOp.10-11のページには 書き込みが遺されていません。
ジェーン・スターリング,ルドヴィカはOp.10-11のレッスンを受けていなかったのでしょう。

詳しくは『自筆譜を詳しく見てみよう!』の項をご覧ください。

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ショパン 練習曲(エチュード)Op.10-11 構成

分かりやすい三部形式

ショパン 練習曲(エチュード) Op.10-11 変ホ長調

ショパンの練習曲集Op.10,Op.25の24曲はすべて三部形式で書かれています。
崇高な芸術作品でありながら決して難解ではなく,分かりやすい構成で作られているところは,
ショパンの作品の魅力の一つです。

Op.10-11も 主部AA’中間部B再現部A”コーダ という分かりやすい構成になっています。

ずっと同じ音型の繰り返しなのに,和声の変化によって明確な構成が作られているところも驚きです。

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ショパン 練習曲(エチュード)Op.10-11 出版譜によく見られる間違い

音の違い

ショパン 練習曲(エチュード) Op.10-11 変ホ長調

例えば,上の譜例は3小節目ですが,右手2番目の音が版によって異なっています。
ドイツ初版が恣意的にB♭音を追加してしまっていて,その間違いがミクリ版など後世の出版譜に受け継がれてしまっています。

自筆譜やフランス初版を見れば明らかなように,エキエル版のように「D – B♭ – D」と3音の和音になっているのが正解です。

このように,ドイツ初版の恣意的に編集された間違いや,フランス初版の間違いなどの多くが 後世の楽譜に受け継がれてしまっています
その間違いは,たった54小節のOp.10-11の中で 十数箇所におよびます。

音の間違いが様々な組み合わせで受け継がれることで,現在出版されているOp.10-11の譜面は 譜面によって印刷されている音が千差万別,様々な譜面が書店に並んでいます。

幸い,和声が変わってしまうほどの間違いはほとんどありません。
特にこだわりがなければ,どの出版譜で演奏しても問題ないでしょう。

しかし和声が同じとはいえ,構成音が1音変われば鳴らされる和音の表情は変化します。
できればエキエル版などの原典版を使って演奏するべきだと思います。

46小節目 ショパンが生徒の楽譜に書き込んだ修正

ショパン 練習曲(エチュード) Op.10-11 変ホ長調

46小節目の3拍目ですが,3連符になっている楽譜や録音があります。
これは,カミーユ・デュポワのレッスン譜に ショパン自身が書き遺した書き込みを反映したものになります。

カミーユ・デュポワにショパンが書き込んだのは 出版から何年も後になってからのことになりますから,
3連符で演奏するのが ショパンの最終的な意図を反映しているといえます。

ただ,これは ossia として書き込まれたものだと考えられますので,3連符で演奏するのが正解,そうでなければ不正解,というわけではありません。

エキエル版では,よりショパンの最終的な意図だと考えられる3連符をメインの譜面に採用していて,本来の2連符も譜面の上に併記されています。

52~53小節目 8vaの開始位置

ショパン 練習曲(エチュード) Op.10-11 変ホ長調

自筆譜やフランス初版から明らかなように,8va は最後の2つの和音のみにつけるのが正解です。

ところが,ドイツ初版が恣意的に 8va の開始位置を変えてしまっていて,
この間違いを コルトー版やミクリ版などの権威ある出版譜が受け継いでしまっています。

そのため,現在出版されているほとんどの楽譜に間違いが受け継がれていて,
世にあふれる録音も間違えた演奏ばかりとなっています。

ショパンが大譜表の下段(左手用の段)に 8va alta を書き込むことはありません。
ショパンが本当に1オクターブ上を弾くことを意図しているならば,コルトー版のように 譜表にト音記号ト音記号を書いて記譜をしたハズです。

よって,ショパンが 8va の書き込む場所を間違えた可能性はありません。
ドイツ初版が完全に間違えています

なお,2021年開催のショパンコンクール 1次予選では 5名のコンテスタントが Op.10-11 を演奏し,そのうち2名は 自筆譜・フランス初版に忠実に正しく 8va をつけて演奏していました。

エキエル版の普及により,原典に忠実な演奏が徐々に増えてきていて 喜ばしいです。

しょくぱん
しょくぱん

下の記事には,2021年ショパンコンクール 1次予選のアーカイブが データベース化されています。
検索窓に「10-11」と入れていただければ,Op.10-11を演奏した5名のコンテスタントの演奏が絞られて抽出されます。

そして,演奏曲目のリンクをクリックすると 公式ページにアーカイブされている演奏動画を視聴することができます。

ショパン 練習曲(エチュード) Op.10-11 変ホ長調
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ショパン 練習曲(エチュード)Op.10-11 自筆譜を詳しく見てみよう!

ショパン自筆の清書原稿

フランス初版の原稿として,ショパン自身の手によって書かれた清書を ストックホルムの音楽文化振興財団が所蔵しています。

1932年9月~1933年3月ごろに書かれたものだと考えられています。

全景

ショパン 練習曲(エチュード) Op.10-11 変ホ長調

いつも通り 丁寧に記譜されています。
自筆譜を見ても,その見た目からは あんなにも美しい音楽が奏でられるとは 想像ができないですね。

冒頭

ショパン 練習曲(エチュード) Op.10-11 変ホ長調

ショパン 練習曲(エチュード) Op.10-11 変ホ長調と書かれています。
最終的な決定稿として フランス初版に書かれたテンポ指定と 全く同じになっています。

一つひとつの音譜が丁寧に記譜されていて,スラーやスタッカート(スタッカーティシモ)などのアーティキュレーションや,強弱記号,クレッシェンド,ディミヌエンド,ペダル指示なども丁寧に書かれています。

10~15小節目 記譜の省略

ショパン 練習曲(エチュード) Op.10-11 変ホ長調

9~16小節目は,1~8小節目とほとんど同じ繰り返しになるため,
記譜が省略されています。

訂正の跡

Op.10-11は ショパンの他の作品と比べると 訂正の跡がかなり少ないです。

24小節目 丁寧に削り取った修正跡
ショパン 練習曲(エチュード) Op.10-11 変ホ長調

書き込みを丁寧に削り取って修正している跡が遺されています。

50小節目 大幅な修正の跡
ショパン 練習曲(エチュード) Op.10-11 変ホ長調

50小節目が,小節まるごと塗りつぶされて 書き直されています。

生徒の楽譜へのショパン自身の書き込み

ジェーン・スターリング,ルドヴィカのレッスン譜のOp.10-11のページには書き込みが遺されていません。
ジェーン・スターリング,ルドヴィカはOp.10-11のレッスンを受けていなかったのでしょう。

カミーユ・デュポワが使用していた楽譜のOp.10-11のページには,ショパン自筆の書き込みが多数遺されています。

カミーユ・デュポワの使っていたフランス版の第三版

カミーユ・デュポワが使用していたフランス初版(フランス版の第三版)をパリのフランス国立図書館が所蔵しています。

34小節目,38小節目
ショパン 練習曲(エチュード) Op.10-11 変ホ長調

34小節目,38小節目では,前打音付きアルペッジョの正しい奏法が円弧によって示されています。
ショパン 練習曲(エチュード) Op.10-11 変ホ長調ショパン 練習曲(エチュード) Op.10-11 変ホ長調ではなく,ショパン 練習曲(エチュード) Op.10-11 変ホ長調と弾くのが正しい奏法であることが,ショパンの書き込みからも確認できます。

46小節目 3連符への書き換え
ショパン 練習曲(エチュード) Op.10-11 変ホ長調

46小節目の3拍目ですが,3連符になっている楽譜や録音があります。
これは 「出版譜によく見られる間違い」の項ですでに触れましたが,カミーユ・デュポワのレッスン譜に ショパン自身が書き遺した書き込みを反映したものになります。

フランス初版の間違いを訂正する書き込み
ショパン 練習曲(エチュード) Op.10-11 変ホ長調

フランス初版は多くの臨時記号が抜けてしまっていて,
ショパンは フランス初版のミスを訂正する書き込みを遺しています。

エキエル版はこれらの訂正もすべて考慮して譜面が作られています。

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ショパン 練習曲(エチュード)Op.10-11 演奏の注意点

遅いテンポでも楽しめる作品

Op.10-11はショパンの作品の中では比較的 演奏される機会の少ない作品です。
しかし,ショパンらしい優美で繊細な魅力あふれる隠れた名曲です。

ショパン指定のテンポで演奏するのは 難易度が高いですが,アマチュアのピアニストが演奏を楽しむのでしたら,ショパン指定のテンポにこだわらなくても良いでしょう。

Op.10-11は伝統的に,遅いテンポでの演奏も一般に認められています。
Op.10-11はゆったりとしたテンポで弾いても,大変魅力的な作品です。

一方で,ショパンの意図に忠実な演奏を目指すのでしたら,ショパン指定のテンポは守られるべきです。

プロの演奏家になれば,ショパンの意図には縛られず 独自の説得力ある解釈で遅いテンポを選択することもあると思います。
しかし プロの演奏家を目指すのでしたら,一度はショパン指定のテンポで弾けるようになっておくべきです。

Op.10-11をショパン指定のテンポで演奏するのは難易度が高いですが,
細部まで妥協せずに 遅いテンポで繰り返し練習すれば 徐々に身体が奏法を覚えていきます。

単にアルペッジョの奏法が身につくだけでなく,
繰り返し訓練することで ピアノ演奏の素養となる両手のひらの拡張と脱力・柔軟性を身に付けることができます

ショパン指定のテンポで 乱暴にならず 優美で繊細な演奏ができるようになれば,
古今東西あらゆる作品を演奏する際の,貴重な素養が身につきます。

ぜひ,ピアノ学習の過程のどこかで 一度はショパン指定のテンポによる演奏を目指してください。

正しい奏法で反復訓練

Op.10-11は数え切れないほど 両手アルペッジョを繰り返すことになります。

間違えた奏法で練習してしまうと,その間違えた弾き方が 繰り返し身体に刷り込まれることになります。

もちろん,気軽に楽しむ分には そんなことを気にしなくて良いのですが,
本格的に練習に取り組む際には,事前に 両手アルペッジョをどのように演奏するのが最良なのか,一つひとつの和音について それぞれ時間をかけて研究した上で 練習に取りかかった方がよいでしょう。

本項では,当サイト管理人が最良だと考える奏法を示していますので 参考になさってください。

両手アルペッジョの奏法

ショパン 練習曲(エチュード) Op.10-11 変ホ長調

ショパンの場合,アルペッジョの波線が上下で分かれていても,つながっていても,奏法は同じです。
波線が上下に分かれている場合でも,右手と左手のアルペッジョを同時に弾き始めることはありません。

Op.10-11のアルペッジョも 波線が上下で分かれて記譜されていますが,右手と左手のアルペッジョを同時に弾き始めることはありません

ショパン 練習曲(エチュード) Op.10-11 変ホ長調
ショパンの “両手アルペッジョ” の奏法
  1. 最低音(左手の5の指・小指の音)を先取りで鳴らす
  2. 下から上へ順番に音を鳴らす
  3. 左手上部の音(左手の1,2,3の指で鳴らす音)と,右手下部の音(右手の1,2,3の指で鳴らす音)を重ねて鳴らすことで,和音が美しく響く場合はそのようにする。
  4. オクターブや15度(2オクターブ)の音程など,不自然に目立つ重ね方は避ける。
ショパン 練習曲(エチュード) Op.10-11 変ホ長調

ショパンの作品における “両手アルペッジョ” の奏法は上記の通りです。

上の《良くない例》のように,右手と左手のアルペッジョを同時に弾き始める演奏をよく耳にしますが,それでは和音が美しく響きません。

最低音を先取りで響かせることで,和声の根音となる最低音を,静かに柔らかく しかし他の音にかき消されずに 美しく響かせることができます。

低音から高音へ順番に音を鳴らすのが基本ですが,
左手の高音部と右手の低音部を重ねることで 和音が美しく響く場合は,そのようにします。

例えば1小節目は 上の譜例のように,左手の最高音のG音と 右手の最低音のB♭音を重ねると 和音が美しく響きます。

ショパン 練習曲(エチュード) Op.10-11 変ホ長調

3小節目の後半は,上の譜例のように 左手の高音2音と 右手の低音2音を重ねると 和音が美しく響きます。

Op.10-11には 数え切れないほど 両手アルペッジョの和音が出てきますが,
その全てにおいて 最も美しく響く重ね方を 妥協せずに検討しておくべきです。

和音の重ね方を 事前にどこまで妥協せずに研究したか,が演奏の美しさを決めると言えます。

アルペッジョ+前打音 の奏法

ショパン 練習曲(エチュード) Op.10-11 変ホ長調
ショパン 練習曲(エチュード) Op.10-11 変ホ長調

再現部に アルペッジョに前打音がついたものが 何度か出てきます。
アルペッジョを弾いてから前打音を弾くのが正解です。

つまりは,ショパン 練習曲(エチュード) Op.10-11 変ホ長調ショパン 練習曲(エチュード) Op.10-11 変ホ長調ではなくショパン 練習曲(エチュード) Op.10-11 変ホ長調と弾くのが正解です。

カミーユ・デュポワが使用していたレッスン譜に書き遺された ショパンの書き込みからも,
アルペッジョを弾いてから 前打音を弾くのが正解であることが分かります。

アルペッジョは軽くcrescendo

ショパン 練習曲(エチュード) Op.10-11 変ホ長調

アルペッジョは低音部から高音部へ向かって 少しだけ crescendo させます。
自然に流れるような演奏のために重要な,音楽演奏の基本中の基本の一つです。

どんなにテクニックのある 正確に指が速く動くピアニストであっても,こういった基本がおろそかな演奏は不自然なものになります。

上級者と初心者,プロとアマチュアの差は,テクニックのある・なしよりも
こういった自然に流れるような演奏ができるかどうかで決まるのではないかと思います。

また,各和音の最低音は 和声の根音となる大切な音ではありますが,過度に大きな音を鳴らしてしまうと不自然な演奏になってしまいます。

最低音が過度に大きな音にならないように注意しましょう。

アルペッジョを正しい奏法で演奏していれば,つまりは,最低音を拍よりも先取りで演奏していれば,
ダンパーペダルとの協同で,最低音を 静かながらも しっかりと響かせることができます。

広い音程は時間をかけて弾く

ショパン 練習曲(エチュード) Op.10-11 変ホ長調

広い音程のアルペッジョは,狭い音程のアルペッジョよりも 少し時間をかけて弾きます。
これも,自然な演奏をするための基本の一つです。

このことにより,自然なテンポのゆれが発生することになります。

Op.10-11は終始 8分音符のアルペッジョの繰り返しですが,音程の広いアルペッジョも 音程の狭いアルペッジョも 全て同じように機械的に弾いてしまうと,無機質で風情のない演奏となってしまいます。

脱力

ピアノ演奏において “脱力” は重要です。

しょくぱん
しょくぱん

当サイト管理には “脱力” という言葉を
りきまず 無理に筋力を使っていない状態のこと
長時間 疲れずに筋肉を使いつづけることができる状態のこと
という意味で使っています。
 

日本人は利き手でお箸を使っても疲れることがないと思います。
完全に脱力ができているからです。
 

利き手ではない方で箸を使うとすぐに疲れるのではないかと思います。
これは脱力ができていないからです。
疲れた部分に無駄に力が入っていることになります。
 

当サイト管理人は右手が利き手です。
訓練として左手で箸を使うようにしていた時期があり,今でも ある程度自由に左手で箸が使えますが,それでも長時間左手で箸を使っているとどうしても疲れます。完全には脱力ができていないのですね。

Op.10-11は 常に手を大きく広げた状態になりますので,脱力ができていないと すぐに疲労がたまります。
疲労との戦いがOp.10-11の演奏を難しくしている原因といえます

手が大きく,筋力のある方ならば 力まかせに弾き通すことも可能かもしれませんが,
それだと気品にかけた乱暴な演奏になってしまいます。

気品が漂う美しい演奏をするためには,柔らかく大きく広がる手と柔軟性,体幹の安定,全身の脱力が欠かせません
これらはピアノ演奏の基礎土台となるものです。

Op.10-11が ショパン指定のテンポで余裕をもって優雅に演奏できるようになったとき,
これらピアニストとして重要な素養が鍛えられた,ということになります。

“疲れない” 遅いテンポでゆっくり練習

ピアノは,無理に速く弾こうとすると どうしても筋肉に無駄な力が入ってしまいます。
力が入ってしまっている,ということは脱力ができていないことになります。

脱力ができていない状態で反復訓練をすると,その良くない演奏姿勢を身体が覚えてしまいます。

筋肉に力が入ることのない,十分過ぎるほどの遅いテンポで練習をすることが,
結局は 速いテンポで弾くことができるようになるための 近道となります。

どうしても 弾いているうちに速くなってしまうと思いますので,
メトロノームの使用をオススメします。

ショパン 練習曲(エチュード) Op.10-11 変ホ長調ぐらいのテンポで,全身が脱力できているか,上半身や肘,手首がくねくね動いていないか,自分の身体の状態をよく確かめながら,正しい演奏姿勢を身体に覚えこませていきましょう。

メトロノームにあわせて 意識せずに自然と正しいフォームで演奏ができるようになったら,
少しずつテンポを速めて,同じ様に繰り返し練習をしていきます。

手首を回転しすぎない

アルペッジョの演奏には 手首の回転が大切だとよく言われています。
全くその通りで,アルペッジョの演奏には 手首の回転が重要です。

しかし,目に見えるほど手首がぐらぐら動いてしまっていては やりすぎです。

美しい安定した音色で演奏するためには,手のひらが鍵盤と平行に保たれていることが大切です。
手首の回転が手のひらは素通りして 指先にだけ伝わるような感触がベストです。

音色 ≒ 音の大きさのバランス

「音色」というのは,物理的には「音波の波形」と ほぼ同義になります。
しかし,ピアノという楽器はその構造上 発音される音の波形を変化させることはできません。

プロが弾いても,猫が鍵盤の上を歩いても,同じ音が鳴る」などと言われることもあります。

しょくぱん
しょくぱん

実際は,鍵盤を打鍵するときの雑音や,ピアノ内部の発音機構の雑音,ペダル使用の効果などが複雑に絡み合うことで,プロの演奏家は 明らかに “美しい音” を鳴らすことができます。

では,ピアノ演奏において「音色」が何で決まるのかというと,発音されている各音の「音量」のバランスで決まります

ピアノ演奏においては,音色 ≒ 音量 といえます。

Op.10-11では 4音~8音で構成された和音をアルペッジョで鳴らし続けます。
全部の音を同じ大きさで鳴らしていては,それは単なる機械的な「音」にしか過ぎず「音楽」にはなりません。

和音を構成している音それぞれに,どれぐらいの「音量」を与えるのか,互いの「音量」のバランス,さらにはペダルをどれぐらい踏み込むのか,打鍵時の雑音,ピアノ内部で発する雑音などが複雑に絡み合って,演奏者や聴衆の脳内で「ある音色」として合成・認識されることになります。

「美しい音を鳴らす」という技術は,具体的に数値化するのは困難ですし,例え数値化されても,そんなマニュアルを見せられたところで「美しい音」を奏でることができるようになるわけではありません。

「美しい音」を追い求めて,注意深く耳を澄ませながら 長い年月をかけて 数え切れないほどピアノに触れながら,職人芸的に身に付けるしかない技術です。

しかし,闇雲にピアノを弾くのではなく 「音量」に注意をはらいながら 手指の形や姿勢,椅子の高さなど試行錯誤することで 少しずつ「美しい音」に近づいていくことができます。

旋律が浮かび上がるように 音量をコントロール

ショパン 練習曲(エチュード) Op.10-11 変ホ長調

「音量のコントロール」によって それぞれの和音を美しく響かせるだけではなく,
旋律を美しく浮かび上がらせて奏でなければなりません。

基本的には右手5指(小指)左手1指(親指)が旋律を奏でることになります。
ときには2,3,4指が旋律を奏でることもあり,手指のコントロールが十分に訓練されていないと演奏が難しいです。

また,右手が cresc. 左手が dim. と,動きが逆になる箇所も音量のコントロールが難しいところになります。

ダンパーペダルとの協同が不可欠

ショパン 練習曲(エチュード) Op.10-11 変ホ長調

広い音域に広がる和音では,全ての音を 指で抑えたままにはできません。

下の音から順番に音を鳴らしていくのですが,アルペッジョを弾き終えるころには
低音部の音(左手5指や右手1指で弾いた音)は 鍵盤から指が離れてしまうことになります。

低音部の音は 和声のベースとなる根音である場合が多いです。
根音が豊かに響かないと,和音全体が頼りない音になってしまいます。

そのため,広い音域に広がるアルペッジョを豊かに美しく響かせるためには,ダンパーペダルが不可欠となります。

ダンパーペダルは 踏み変えのタイミングを間違えると 前の和音と音が混ざってしまう危険性があります。
それぞれの和音が混ざることなく それぞれの和音を豊かに響かせるためには,ダンパーペダルの慎重な踏み変えが重要となります。

アスペッジョにおける ペダルの踏み変え
  1. 次の和音へ移るときには,まずはペダルに頼らずに指で音を抑えてアルペッジョをはじめる
  2. 指で音を抑えているあいだにペダルを離して,前の和音の響きを消す
  3. ペダルを再び踏み,それから指を離す
    そして,より高い音域の音を鳴らすために手首を移動させる。

あえて文章でマニュアル化すると上記のようになりますが,頭で考えながらやろうとしても上手くいきません。

このペダルの踏み変えについては,無意識に 自然と手指と足が連動して動くようになるまで,繰り返し練習をして身体に覚え込ませなければ できるようになりません。

最後の8va

ショパン 練習曲(エチュード) Op.10-11 変ホ長調

最後52~54小節目ですが,8va altaオッターヴァ アルタ の開始位置を間違えた楽譜が量産されています。
これはドイツ初版が恣意的に譜面を変更したものが後世に受け継がれてしまっているものになります。

ショパンの自筆譜やフランス初版のように,最後の2つの和音にのみ 8va を付けるのが正解です。

冒頭 強弱記号なし→pで良い

ショパン 練習曲(エチュード) Op.10-11 変ホ長調

曲の冒頭に強弱記号がありません。

強弱記号なしで曲を始めるのが ショパンの最終的な決定だと考えられますが,
ショパンの自筆譜にはフォルツァンドピアノと書かれていますから,ピアノで開始するのが良いと思います。

強弱の変化は「ほどほど」に

曲中 ピアノフォルテ が数回書かれています。
当然,明確な強弱の変化が必要です。

しかし,Op.10-11はウィーン式アクションのピアノで作曲されています
現代ピアノの能力を遺憾なく発揮して 強弱の変化をつけてしまっては やりすぎです。

強弱の変化を明確に表現しつつも,過度に音量の差をつけすぎないように気をつけましょう。

曲中にはピアニシモも2度書かれています。

ショパンはピアニシモを滅多に使いません。

パリに到着し イギリス式アクションピアノと出会って以降は,
ショパンにとってピアニシモは 極限まで音量を小さく抑える 特別な指示になります。

しかしポーランド時代の作品はウィーン式アクションのピアノで作曲されているため,
現代ピアノで想定されるようなピアニッシモは想定されていません。

シフトペダルを使いながらの,現代ピアノの性能をフルで発揮したようなピアニッシモは想定されていません。
Op.10-11ではピアニッシモも「ほどほど」にしておきましょう。

曲の最後に ” smorzando;だんだん遅く、そしてだんだん弱く。消えるように。rit.+dim.。” が書かれていますが,この表現も「ほどほど」にしておきましょう。

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ショパン 練習曲(エチュード)Op.10-11 実際の演奏

当サイト管理人 林 秀樹の演奏です。2021年5月録音

しょくぱん
しょくぱん

当サイト管理人,林 秀樹の演奏動画です。
自筆譜や写譜,原典版などをご覧いただきながら演奏を楽しんでいただけるようにしています
できるだけ原典に忠実な演奏を心がけています
アマチュアピアニストの演奏なので至らぬ点もたくさんあると思いますがご容赦ください!
*2021年5月録音

◇Op.10-11単独再生

◇Op.10 12曲連続再生

◇Op.25 12曲連続再生

本来,練習曲集は12曲(もしくは24曲)全曲を通して演奏するべきなのですが,
原典に忠実な録音を残すために,1曲ずつ何回も(ときには100回以上も)録り直して録音しました

演奏動画を録音したときの苦労話はショパンの意図に忠実な参考演奏動画【練習曲集Op.10】をご覧ください。

今回は以上です!

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目次
  1. ショパン 練習曲(エチュード) Op.10-11 概要
    1. ピアノにおけるアルペッジョ奏法の真価を示した作品
    2. Op.10-11の練習課題
    3. Op.10-11 運指
    4. 作曲時に使用していたピアノ
    5. 作品番号,調性,作曲年
      1. 人気曲が多いショパンの "変ホ長調"
      2. Op.10とOp.25,全24曲の調性と作曲年の一覧表
    6. メトロノームによるテンポ指定
    7. ショパンが記譜した発想記号・速度記号
      1. 冒頭に強弱記号がない
      2. dolce
    8. ゴドフスキー『ショパンのエチュードによる53の練習曲』
      1. Study in A major (left hand only)
      2. Op.10-11 と Op.25-3 の同時演奏!
  2. ショパン 練習曲(エチュード)Op.10-11 原典資料
    1. ショパンの自筆譜
    2. 信頼できる原典資料~フランス初版~
    3. 他の初版
      1. ドイツ初版
      2. イギリス初版
    4. ショパンの生徒がレッスンで使用していたフランス初版
  3. ショパン 練習曲(エチュード)Op.10-11 構成
    1. 分かりやすい三部形式
  4. ショパン 練習曲(エチュード)Op.10-11 出版譜によく見られる間違い
    1. 音の違い
    2. 46小節目 ショパンが生徒の楽譜に書き込んだ修正
      1. 52~53小節目 8vaの開始位置
  5. ショパン 練習曲(エチュード)Op.10-11 自筆譜を詳しく見てみよう!
    1. ショパン自筆の清書原稿
      1. 全景
      2. 冒頭
      3. 10~15小節目 記譜の省略
      4. 訂正の跡
        1. 24小節目 丁寧に削り取った修正跡
        2. 50小節目 大幅な修正の跡
    2. 生徒の楽譜へのショパン自身の書き込み
      1. カミーユ・デュポワの使っていたフランス版の第三版
        1. 34小節目,38小節目
        2. 46小節目 3連符への書き換え
        3. フランス初版の間違いを訂正する書き込み
  6. ショパン 練習曲(エチュード)Op.10-11 演奏の注意点
    1. 遅いテンポでも楽しめる作品
    2. 正しい奏法で反復訓練
    3. 両手アルペッジョの奏法
    4. アルペッジョ+前打音 の奏法
    5. アルペッジョは軽くcrescendo
    6. 広い音程は時間をかけて弾く
    7. 脱力
    8. "疲れない" 遅いテンポでゆっくり練習
    9. 手首を回転しすぎない
    10. 音色 ≒ 音の大きさのバランス
    11. 旋律が浮かび上がるように 音量をコントロール
    12. ダンパーペダルとの協同が不可欠
    13. 最後の8va
    14. 冒頭 強弱記号なし→pで良い
    15. 強弱の変化は「ほどほど」に
  7. ショパン 練習曲(エチュード)Op.10-11 実際の演奏
    1. 当サイト管理人 林 秀樹の演奏です。2021年5月録音