前奏曲 Prelude Op.28-19 変ホ長調

前奏曲

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※当サイト管理人,”林 秀樹”の演奏です。2020年11月25日録音。
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ショパン 前奏曲 Op.28-19 概要

”すごい”と感じさせない努力

変ホ長調,Vivace(;ヴィヴァーチェ),4分の3拍子。
冒頭にlegatoの指示

幼子がたわむれ遊ぶような,流麗で可憐な作品です。
恐怖の音響世界だった18番との対比で,互いをより引き立てています。

可愛らしい作品ですが,実は演奏者泣かせの難曲です。
延々と広い音域の音型を繰り返すので,相当手の大きなピアニストでも演奏は大変です。
実際,私は無理をすれば11度が届く手を有していますが,それでもちょっと力んでしまうとすぐに腕が疲れてしまって演奏ができなくなってしまいます。
やっぱりピアノ演奏は,脱力が肝心です。

いかにも難しいことを克服して頑張って演奏していることが伝わってしまうと大道芸的パフォーマンスで終わってしまい,この曲の持つ雰囲気や役割が台無しになってしまいます。
難しいことをやり遂げていることを悟られないように,涼しい顔で,気軽に音遊びを楽しんでいる風でなければならず,そこがこの曲の演奏の最大の難しさです
第16番が実際は弾きやすいわりに人技離れた超絶技巧を表現しているのに対して,対極です。

この作品で理想的な演奏をするためには相当の演奏技術と練習時間を要します。
にも関わらず,理想的な演奏をしてしまうと,特に印象に残らず,爽やかに過ぎ去ってしまいます。
ちょっと下手で雑な演奏のほうが,ピアニスティックで,単純に「すげ~!」と称賛を得ることができるかもしれません。
しかし,「すげ~!」と思われた瞬間,前奏曲集の大切な流れが,プッツリと途切れてしまい,結局はそれが大失敗なのです。

「すごい!」と思われないための努力
ピアニスト泣かせです。

ショパン 前奏曲 Op.28-19 構成

変ホ長調,Vivace,4分の3拍子。
冒頭にlegatoの指示

A1A2B1B2A1A3C1C2コーダという構成で,
A1からC2まですべて8小節で書かれています。

ショパンの作品はどれも構成が分かりやすいです。

最初から最後まで,丁寧にクレッシェンドやディミヌエンドの指示がされています。
強弱記号は最後,70小節目にff(フォルテシモ)の指示があるだけです。

ショパン 前奏曲 Op.28-19 版による違い

自筆譜には修正の跡が目立ち,音の数も多いのですが,
各初版とも珍しく自筆譜とほとんど同じになっています

各初版とも,他の作品でもこれぐらい注意深く出版してくれれば,
現代における,ショパンの出版譜の混乱を防げたかもしれません。

32小節目,スラー

自筆譜を見ると,ショパンは冒頭から8小節目まで,書き込んでいたスラーを消しています

32小節目を見ると,一度書いたものを塗りつぶしてから書き直した,その譜面にスラーを書き込んでいます。

つまり,この32小節目のスラーは,消し忘れではなくて,後から意図的に書き込まれたスラーだということです。

各初版では,このスラーが印刷されていません
ミクリ版やコルトー版にも印刷されておらず,このスラーが印刷されている楽譜はほとんどありません

エキエル版では,ちゃんとこのスラーも印刷されています

53,61小節目,3拍目の左手

ドイツ初版のみ異なっています。
ドイツ初版の間違いですね。

69小節目,勝手に追加されたセンツァ

自筆譜を見ると,最後はペダルを踏んだままで終わります。
これはショパンの作品にはよくあることです。

ところが,各初版すべてでセンツァ(ペダルを離す記号)が勝手に書き加えられています

この勝手なセンツァは,フォンタナによって書き加えられたものだとのことです。

最後,69小節目の低音のE♭音がペダルによって最後まで響いているのが,
いつものショパンのスタイルになります。

また,イギリス初版だけ,68小節目から69小節目にかけての右手のスラーがなくなっています

演奏の参考に~コルトー版~

コルトー版は,アーティキュレーションの指示が追加されていて,
他の出版譜とは大きく異なっています。

これらのアーティキュレーションは,ショパンの原典版になかったものを,コルトーが演奏解釈として追加したものであることを理解していれば,参考になるでしょう。

コルトー版では,右手の拍の頭の音が旋律として強調されることが明記されています。
また,19小節目以降,内声部を強調する演奏が提案されています。

右手の拍の頭が旋律を担っていることは明白です。
しかし,コルトー版のように記譜してしまうと,演奏者が視覚的な作用で,
必要以上に拍の頭の音を強調しすぎてしまう危険があります。

19小節目以降,内声部を強調するのは,ショパンの指示ではありません。
目立たせすぎると曲想が変化してしまいます。
強調するにしても,ほんの少し,わずかに浮かび上がる程度の強調にしておくべきだと思います。

ショパン 前奏曲 Op.28-19 自筆譜を詳しく見てみよう!

全景

2ページにわたって記譜されています。

濃く塗りつぶして消した跡が目立ち,
塗りつぶしたインクが裏まで濃くにじみ出ています。

2ページ目の上部2段目までは,とくに濃くにじみ出ていて,
その裏に記譜されている第20番ハ短調は,その汚れを避けるように書かれています。

冒頭

  • ローマ数字のⅩⅨ
    ローマ数字を書き間違えたようで,塗りつぶして訂正されています。
  • Vivace,legato,4分の3拍子
  • いつものように,ペダル指示も丁寧に記譜されています。
  • 弱起の作品です。
    1小節目の前の,3拍目から始まる不完全小節に,何かを書いて消した跡がのこっています。
    丁寧に塗りつぶされているため,読み取れません。
  • 音符も多数,訂正されています。
  • 一度書き込まれたスラーがすべて消されています。

1~10小節目,後で省略するための番号

1小節目から10小節目まで,1から10の番号が書かれています。
33小節目から42小節目までは,番号だけが記譜されて省略されています。

1~8小節目,消されたスラー

1小節目から8小節目まで丁寧に書き込まれていたスラーが,結局は消されています。

このスラーがあるのか,ないのかで,アーティキュレーションがかなり変わります。
スラーがあっても,なくても,両方とも魅力的だとは思いますが,
ショパンが最終的に選んだのはスラーのないものでした。

つまりは,あまり抑揚をつけすぎないように,平坦で滑らかな演奏が求められるということです。

訂正箇所が多数

第19番は,前奏曲集の中でも,特に訂正箇所が多数見られます。
薄く訂正前の記譜が読み取れる箇所も多いです。
ショパンの元々の記譜が読み取れるのは興味深いです。

9-10小節目
13小節目
15小節目
17小節目
21小節目
28-29小節目
30-32小節目

第19番は,塗りつぶして書き直す訂正がほとんどなのですが,
32小節目では3拍目の左手伴奏が消去されています。

43-44小節目
46-47小節目
48小節目
49-51小節目

51小節目左手は,2拍目を塗りつぶして,
2拍目と3拍目は繰り返し記号を記譜しています。

53-54小節目
56-57小節目
59小節目
61-62小節目
63-64小節目
65-66小節目
69-71小節目

ショパン 前奏曲 Op.28-19 演奏上の注意点

leggieroレッジェーロではなく,legatoレガート

音域の広い音型が延々と続きます

音の数が多いため,深く強い打鍵をすると音量が大きくなってしまうため,
浅く軽い打鍵で演奏することになります

レガートの奏法は,上の譜例のように,
次の音を鳴らすまで,前の音を鳴らしたままにするのが基本です。

しかし,音域の広い音型が続くため,大半は手が届きません

軽い打鍵で,早く指が離れてしまうと,自然とleggieroなタッチになってしまいます

ペダルを上手に活用しなければレガートな演奏はできません
ショパンが丁寧なペダル指示をのこしていますから,
ショパンのペダル指示が参考になります。

脱力が肝心

ずっと手を大きく広げたまま演奏し続けることになります。
大きな手を持つ演奏者でも,脱力ができていなければ,すぐに疲れてしまいます

長時間弾き続けても疲れを感じない速さで,メトロノームにあわせて繰り返し練習するのが効果的です。

ゆっくりと弾いているときの,全身の筋肉の余裕ある状態が”脱力”できている状態です。

無理に速く弾こうとすると,全身の色々な筋肉に力が入って,繊細なコントロールが効かなくなるはずです。
これは”脱力”ができていない状態です。

脱力ができている状態で演奏が可能な,ゆっくりとした速さで年度も繰り返し練習しましょう。

そして,メトロノームを少しずつ速くしていきます

脱力ができていない,力んだ状態で焦って練習しても,
体にヘンなクセがついてしまいます。

あわてずゆっくりと練習するのが,速く演奏するための近道だと思います。

抑揚をつけすぎない

ショパンは,元々書き込んでいたスラーを消しています

これは,1拍ごとに抑揚をつけるような指示を,平滑な演奏の指示に変えたということです。

抑揚をあまりつけすぎず,平坦に滑らかに演奏しましょう

最後70小節目にffの指示がある以外は強弱記号なし

最後の2つの和音にff(フォルテシモ)の指示がある以外は,強弱記号が書かれていません。

音の数が多く,レガートに演奏するために,ペダルも多用する曲です。
ちょっと力を入れると,容易に大きな音量を出すことができます。

あまり音量の大きい,うるさい演奏は,曲想にあいません。

ミクリ版やコルトー版では冒頭にp(ピアノ)の指示が書き加えられています。
参考になります。

あまり大音量にならないように気をつけながら,
明るく元気に,楽しげな音
をこころがけましょう。

ショパン 前奏曲 Op.28-19 実際の演奏

当サイト管理人の演奏です。

※当サイト管理人,”林 秀樹”の演奏です。2020年11月25日録音。
◆Op.28-19のみ再生


◆24曲全曲再生リスト

本来,前奏曲集は24曲全曲を通して演奏するべきなのですが,今回は各曲の解説が目的なので,1曲ごとに区切って演奏を公開していきます。

ショパンの意図を忠実に再現しようとしています。
(なかなか難しいですが・・・)

ぜひ,お聴きください!

今回は以上です!

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