2021.09.19 ショパン作品一覧【ワルツ全27曲】を公開しました!

ショパン 前奏曲 Prelude Op.28-23 ヘ長調

前奏曲

※他の曲の解説へのリンクや,作品全体の解説はこちらへ。

※当サイト管理人,”林 秀樹”の演奏です。2020年11月25日録音。
◆Op.28-23のみ再生


◆24曲全曲再生リスト
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ショパン 前奏曲 Op.28-23 概要

儚く淡い残滓の余韻

曲集最後の長調の曲です。
幻想的な美しさは,儚さが極まり,残滓の余韻しか残っていません

分散和音とトリルが溶け合い,色彩はぼんやりと明度を上げていき,明清色となって淡い余韻だけが微かにのこります

明確な旋律や伴奏はありません。
高音域では16分音符がキラキラと優美・繊細に輝くように終始奏でられます
戯れるように断続的にあらわれる中音域の楽句が,鮮やかな色彩を放ちます

此岸と彼岸のはざまで走馬灯を見ているような,
儚げな美しさ
があります。

delicatissimo

ショパン 前奏曲 Prelude Op.28-23 ヘ長調

冒頭,delicatissimo;とても繊細に が記譜されています。

ショパンの作品は,特に指示がなくても,表情豊かに,甘く柔らかく,歌うように,繊細に演奏することは演奏者にとって常識といえるでしょう。
そうでなければショパンのスタイルになりません。

そんな中,あえて,

  • 第4番にはespressivo;表情豊かに
  • 第7番にはdolce;甘く,優しく,柔らかに
  • 第21番にはCantabile;歌うように、表情豊かに
  • そして第23番にはdelicatissimo;とても繊細に

の指示がショパンの手によって書き込まれています。

指示がなくとも繊細に演奏することが大前提で,
さらに,この作品は特別に「delicattisiimo」に演奏するようにという
ショパンからの指示です。

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ショパン 前奏曲 Op.28-23 構成

ヘ長調 モデラート,4分の4拍子

分かりやすい三部形式

ショパン 前奏曲 Prelude Op.28-23 ヘ長調

4小節がひとかたまりになっており,
(A1A2A1’)─BA1’’コーダという分かりやすい三部形式になっています。

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ショパン 前奏曲 Op.28-23 版による違い

13小節目,不要なG音

ショパン 前奏曲 Prelude Op.28-23 ヘ長調

13小節目の左手ですが,自筆譜をみると塗りつぶして書き直してあり,見辛くなっています
でも,よく見ればF音であることが読み取れます

ところが,ドイツ初版では楽譜にないG音が書き加えられてしまっており,
その間違いは,ミクリ版やコルトー版などの後世の権威ある出版譜に受け継がれてしまいました

そのため,現在でも間違えてG音が書き加えられている楽譜がたくさん出版されています

楽譜購入の際には気をつけましょう。

ショパン 前奏曲 Prelude Op.28-23 ヘ長調

14小節目も,G音がB♮音になってしまっている楽譜がたまにありますから,
楽譜購入の際は,これも気をつけましょう。

15~16小節目,自筆譜が読み取りづらい

ショパン 前奏曲 Prelude Op.28-23 ヘ長調

15~16小節目の左手が,複雑で自筆譜が読み取りづらいです。
しかしよく見れば,15小節目のG音には付点が2つついていることや,16小節目のB♭音が全音符で,G音は二分音符であることなどが読み取れます。
エキエル版は,ショパンの自筆譜を完全に再現しています
エキエル版以外に,ショパンの自筆譜と完全に一致する出版譜はありません

しかしペダルをほぼベタ踏みにしているので,多少の音価の違いは,聴いていても判別できないので,
問題ありません。

自筆譜を見ると,16小節目1拍目に小さいながらもF音が記譜されています。
ドイツ初版では,このF音が消えてしまっています
コルトー版では,このF音がタイでつながれてしまっています
これらの版では,このF音が鳴らされないことになります

16小節目の1拍目ではF音が鳴らされなければなりません

コルトー版のようにタイでつながれてしまっている楽譜がたくさん出版されていますから,気をつけましょう。

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ショパン 前奏曲 Op.28-23 自筆譜を詳しく見てみよう!

全景

ショパン 前奏曲 Prelude Op.28-23 ヘ長調

淡く儚げな美しさに満ちた作品ですが,
その自筆譜を見ると,訂正の跡が多数遺っており,凄絶な苦悩と葛藤を感じます

訂正の跡

ショパンの苦悩の推敲の跡を見ていきましょう。

2~3小節目
ショパン 前奏曲 Prelude Op.28-23 ヘ長調

音符だけでなく,アーティキュレーション(スラー)にも推敲の跡があります。

4小節目
ショパン 前奏曲 Prelude Op.28-23 ヘ長調

3~4拍目が濃く塗りつぶされて,書き直されています。
音符の修正跡や,アクセントを消した跡も遺っています。

6小節目
ショパン 前奏曲 Prelude Op.28-23 ヘ長調
7小節目
ショパン 前奏曲 Prelude Op.28-23 ヘ長調
9小節目
ショパン 前奏曲 Prelude Op.28-23 ヘ長調
13小節目以降
ショパン 前奏曲 Prelude Op.28-23 ヘ長調

作品の後半は,訂正の跡がさらに増えます。
ショパンがよほどこだわって推敲を重ねたことが想像できます。

他の作品と比べても,念を入れすぎるぐらい,濃く塗りつぶされていて
思いの強さが感じられ,鬼気迫る迫力があります

特に左手の楽句の訂正の跡が目立ちます。

14小節目では,一度書いた書き込みを塗りつぶし,下の余白の段に書き直してそれも塗りつぶし,
最終的に右のあいたスペースに書き込んでいます。

16小節目と18小節目の塗りつぶした跡も凄絶です。

19小節目から最後の22小節目までは,一度記譜がほぼ完成したにも関わらず,
丹念に塗りつぶされて書き直されています。

書き直した後の20~21小節目の大譜表の中間には,何かを書き込んだ跡が遺っています。
これも丁寧に塗りつぶされているため,判読できません。
大変気になります。

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ショパン 前奏曲 Op.28-23 演奏上の注意点

delicatissimo

ショパン 前奏曲 Prelude Op.28-23 ヘ長調

冒頭,delicatissimo;とても繊細に が記譜されています。

ショパンの作品は,特に指示がなくても,繊細に演奏することは演奏者にとって常識です。
そうでなければショパンのスタイルになりません。
ショパンは,あえて特別に「delicattisiimo」の指示を記譜しています

指は鍵盤に吸い付けられたように鍵盤から離さないようにすると良いでしょう。
少し鍵盤を浅く押し下げたあとで打鍵すると,柔らかく繊細な音が鳴らせます。

16分音符が連続しますから,音を鳴らしながら,
次の音,さらにその次の音の鍵盤を押し下げて待機させておく感覚です。

これは,ピアノ上級者ならば意識せずとも身体が覚えている感覚だと思います。
逆に言うと,ピアノ初心者が1~2ヶ月詰めて練習しても,なかなか身につけることができない感覚だと思います。

この作品を美しく演奏するには,長い年月,演奏の経験を積むしかないでしょう。

Moderato

この作品は,練習曲ヘ長調Op.10-8とよく対比されますが,
曲想はまるで違います。

速度指示はModeratoです。

練習曲Op.10-8のようにAllegroでもなく,
前奏曲Op.28-3のようにVivaceでもありません。

決して高速で弾き飛ばさず,一つひとつの音の粒を明瞭に鳴らしましょう

左手トリルの弾き方

トリルといっても,ショパンのトリルには「短いトリル」「長いトリル」「下からのトリル」の3種類があります。

この作品に4回出てくる左手のトリルは「下からのトリル」です
下からのトリルは拍と同時に演奏します

ショパン 前奏曲 Prelude Op.28-23 ヘ長調

間違えて拍よりも先取りで演奏している録音が世にあふれています
ショパンの作品は著作権が切れており,どのように演奏するかは演奏者の自由ですが,
ショパンの意図を忠実に反映した演奏を目指すならば,拍と同時に演奏しなければなりません

ショパンの下からのトリルは,音に「しゃくり(ベンドアップ)」の効果をもたらすもので,
拍と同時に演奏することで,その効果が発揮されます。

左手アルペッジョの弾き方

アルペッジョも,ショパンの場合は,「右手のアルペッジョ」と「左手低音部のアルペッジョ」,そして「両手アルペッジョ」でそれぞれ奏法が異なります。

この作品はアルペッジョが5回出てきますが,全て「左手低音部のアルペッジョ」になります。

ショパン 前奏曲 Prelude Op.28-23 ヘ長調

ショパンの装飾音では拍と同時に演奏するのが普通ですが,
左手低音部のアルペッジョは,拍よりも先取りして演奏します

ショパン 前奏曲 Prelude Op.28-23 ヘ長調

先取りで演奏する理由は,和声の根音となる最低音をしっかりと響かせるためです。
ですので,拍よりも先取りで演奏しなければならない音は最低音だけになります。

最低音以外の中音域の音は,
・拍よりも前に先取りで
・拍と同時に
・拍よりも後に
どのタイミングで音を出しても大丈夫です。

中音域の音をいつ鳴らすかは,和声が一番美しく響く弾き方を選択することになります。

3つの音からなる和音の場合は,
・最低音を先取りで鳴らし,
・真ん中の音を拍と同時に鳴らして,
・一番高い音は拍の後に鳴らす
と美しく響く場合が多いです。

しかしこの作品に出てくるアルペッジョは,一番上の音を拍の頭にあわせて弾くのがベストです。
この作品のアルペッジョは,2番目の音が右手1拍目の音と同じであるため,この2オクターブの音を同時に鳴らしてしまうと,不自然にその音が目立ってしまうためです。

以上,長々と説明しましたが,まとめると,
左手のアルペッジョは拍よりも先取りで弾き始めて,一番上の音を拍と同時に鳴らす
ということになります。

勇気を出してペダルを踏み続けよう

ショパン 前奏曲 Prelude Op.28-23 ヘ長調

ショパンのペダル指示は,終始ペダルをベタ踏みする指示となっています
音が濁るのを避けて,ショパンの指示を守らずにペダルを離して(ハーフペダルで)演奏する演奏者が多いです
ピアノ上級者ほど,ベダルをほとんど踏まずに演奏する傾向にあります。

確かにペダルを奥まで踏み込んでしまうと,現代のピアノでは,音が濁ってしまいます
しかし,少しだけ浅く,しかしハーフペダルよりは深く(4分の3ペダルぐらい?)ペダルをベタ踏みにすると,たくさんの音が溶けて混じり合い,幻想的な美しい響きとなります。

ここはショパンの指示を蔑ろにせず,勇気をだして,ペダルをベタ踏みにしてみてください。
その美しい響きの虜になることでしょう。

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ショパン 前奏曲 Op.28-23 実際の演奏

当サイト管理人の演奏です。

※当サイト管理人,”林 秀樹”の演奏です。2020年11月25日録音。
◆Op.28-23のみ再生


◆24曲全曲再生リスト

本来,前奏曲集は24曲全曲を通して演奏するべきなのですが,今回は各曲の解説が目的なので,1曲ごとに区切って演奏を公開していきます。

ショパンの意図を忠実に再現しようとしています。
(なかなか難しいですが・・・)

ぜひ,お聴きください!

今回は以上です!

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