ショパンの装飾音03~短いトリル~

装飾音

ショパンの短いトリル~記譜法と奏法~

3種類の記譜法はどれも同じ

ショパンが短いトリルを記譜する際は,上の譜例のように3通りの書き方を使っていました。
どの記譜法も違いはありません

また,記号を用いずに,完全な形でトリルを記譜する場合もあります。

奏法は記譜法によって変わるのではなく,使われている場面・状況によって変わります

拍と同時にはじめて,先取りはしない!

上の譜例の奏法のように,トリルを弾く速さは変わります。
しかしどんな場合にも変わらない原則があります。

重要なのは,”拍と同時にはじめて,先取りはしない”ことです。

これは一部の例外もありますが,原則,拍と同時に弾けば間違いありません。

トリルを弾く速さは前後の音楽的性格で変わる

トリルを弾く速さは,トリルの前後の音楽的性格によって変わります。
曲のテンポによって変わると言っても良いでしょう。

テンポが速い場合は,このトリルがついている音を生き生きとさせたり,強調したりする効果があります。

テンポが遅い場合は,トリルが主要音の打撃を和らげます。
特にメロディを奏でるときに,人が歌うように自然に音が発しているような効果を与えます。
それは,まるで「こぶし」をまわしたり,「しゃくり(ベンドアップ)」を入れたりするような効果があります。

ショパンの作品の中で使われている短いトリルの例

バラード第1番Op.23

拍と同時に演奏します。
先取りで弾いてしまうと,主音である4拍目の音が不必要に強調されてしまいます。

マズルカOp.33-3

この曲は多くの出版譜ではOp.33-2となっていますが,自筆譜およびフランス初版(,そしてエキエル版)ではOp.33-3となっています。
当サイトではショパン自身の意思を尊重し,Op.33-3とします

1拍目に何度も短いトリルがでてきますが,全て拍と同時に弾きます

この例でも,先取りで弾いてしまうと1拍目の主音が強調されてしまいます。
特に,3拍目にアクセントをつけて演奏する場面なので,1拍目のアクセントは,この部分の舞踏的リズムを阻害します

協奏曲第1番Op.11 第3楽章

複前打音や短いトリルが何度も出てきますが,全て拍と同時に演奏します

複前打音や短いトリルによって音が柔らかくなるところですが,先取りで弾いてしまうと逆に強い打撃音となってしまいます。

ワルツOp.34-1

A♭の2分音符を,柔らかく伸ばしたいときは拍と同時に,強い打撃音で強調したいときは先取りで演奏することになります。

よりショパンらしいスタイルは,拍と同時に演奏するやわらかい音でしょう

前打音のついた短いトリル

ワルツOp.34-1

短いトリルに前打音がついている場合もあります。

ショパンが用いた記譜法には,短いトリルも含めて複前打音として記譜している場合もあります。
この2つの記譜法は,奏法は同じになります。

前打音を拍と同時に弾いて,前打音の後にトリルを続けます

ポロネーズOp.26-1

これも,記譜法は違いますが,上記ワルツOp.34-1と同じ奏法になります。

短いトリルを先取りする例

短いトリルを先取りすると,よりトリルの効果が強調されることになります。
これはショパンの作品では不要な表現になるので,できるだけ避けなければなりません。

しかし,フレーズの最初の音に短いトリルがあるとき,特に直前に音がなく,先取りによって長さの減じられる音が前にないときには先取りのトリルも可能です。

拍と同時に演奏するのが技術的に困難な場合

  • 前奏曲Op.28-3
    • Vivaceなので,拍と同時に演奏するのは不可能です。
    • 無理に拍と同時に演奏すると,その部分だけ極端に音の密度が高くなります。
    • 一つ前の音が複付点4分音符なので,十分に間があいていて,短いトリルを先取りしても,前の音の長さが短くなって詰まってしまうことがありません。
    • ここは,ショパンの作品には珍しいですが,先取りでトリルを演奏するのが正解です。
  • ワルツOp.34-3
    • 左の譜例の場面は,演奏が困難な場所ですが,短いトリルを先取りしても技術的な難しさは変わりません。
      トリルを先取りしてしまうと,不要なアクセントがついてしまいますので,拍と同時に弾くのが正解です。
    • 右の譜例では,短いトリルの前に休符があるので,先取りによる演奏も可能です。
      が,ショパンのワルツはウィンナワルツと同様に,2拍目を長くする演奏が自然です。
      拍と同時にトリルを演奏することで自然と2拍目が長くなります。
  • ワルツOp.64-1『小犬のワルツ』
    • 左側のトリルですが,インテンポで弾くのは技術的に難しいです。
      先取りしても技術的な難しさは変わりません。

      • 【解決法1】速度を落とす
        この部分はテンポを落とすのが自然な流れになります。
        多くのプロの演奏者は,ここでテンポを落として演奏しています。
      • 【解決法2】前打音に変えてしまう
        これも多くのプロの演奏家が採用している弾き方です。
        速いテンポで弾いていると,聴いた感じでは違いがほとんど分かりません。
    • 右側のトリルは特に技術的な難しさはありません。拍と同時に演奏します
      • ワルツOp.34-2に,ショパンが短いトリルを完全な形で書いています。
        この部分の短いトリルと全く同じものになります。

そもそもトリルではない

これはトリルのように見えますが,前の音を主音とする装飾音です。
Op.28-21の例では1拍目のE♭が主音です。Op.37-1の例では3拍目のC(ドの音)が主音です。

Op.28-21では数小節後にターンが出てきますが,このターンと同じように,1拍目と2拍目の間に演奏します。

速く鋭くならないように,柔らかく演奏します。

拍と同時に弾いたほうが良いが,先取りでも構わない例

  • 即興曲Op.29
    • フレーズの一番はじめの音ですし,アクセントもついていますので,先取りでも問題ありません。
  • ノクターンOp.37-2
    • 拍と同時にトリルを弾くのが難しいときは,直前に音がないため,先取りでのトリルが可能です。
  • ノクターンOp.72-1
    • 直前に音がないため,先取りでのトリルが可能です。
      柔らかく丁寧な演奏をすることが大切で,先取りでのトリルも問題ありません。

ショパンが同じ作品で記譜法を変えている例

これらの例では,ショパンは意図的に記譜法を変えており,なんらかの表現の違いを意図しているものと思われます。

当サイト管理人は,“tr”や”w”のような記号のトリルは速く演奏されるトリル,複前打音のように書き下されているトリルはゆっくり演奏されるトリルだと解釈しています。

しかし,”tr”や”w”のような記号のトリルは拍と同時に演奏するトリル,複前打音のように書き下されているトリルは先取りで演奏するトリル,と解釈することも可能です。

ショパンの短いトリル~まとめ~

  •  拍と同時に弾き始める!
    • ごくまれな例外を除いて,拍と同時に弾き始めるのが正解です。
    • 直前に音がないときは先取りでの演奏も可能です。
  • どの記譜法も違いはない!
    • ただし,同じ作品の中で意図的に記譜法を変えているときは,その違いを意識しましょう。
      当サイト管理人は,トリルを弾く速さを変えるようにしています。

今回は以上です!

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