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※当サイト管理人,”林 秀樹”の演奏です。2020年11月25日録音。
◆Op.28-2のみ再生
◆24曲全曲再生リスト
ショパン 前奏曲 Op.28-2 構成
Lento(レント,遅く),2分の2拍子
イ短調で書かれていますが,後述する通り最後の最後までイ短調であることが分からないように作曲されています。
一説では1831年ごろには作曲に着手していたといいます。
完成したのは1838年なので,長い年月をかけて,ああでもない,こうでもないと思案し続けてようやく完成した作品だということになります。
つまりは,思いつきでこんな不可解な曲を作っちゃったわけではないということです。
調が定まらない不安
冒頭から転調を繰り返し,主調がわかりません。
♯1つの調(ホ短調,ト長調)→♯2つの調(ニ長調,ロ短調)→♯3つの調(イ長調,嬰ヘ短調)と推移しているように聞こえますが,不協和音が混ざっているため,その調性もはっきりと聞き取れません。
15小節目にようやくイ短調(のように聴こえる調)に到達しますが,それが果たしてこの曲の主調であるかは,15小節目では判断ができません。
一番最後にイ短調の和音が鳴らされるため,ここでようやくイ短調の曲であったことが明らかになります。
調性がはっきりと感じ取れない状況は,聴いているものを不安に陥れます。
現代人は,調性のはっきりしない音楽や,調性の無い音楽にも慣れています。しかしこの曲が出版された19世紀前半(1839年)当時はそうではありません。
当時としては極めて斬新で前衛的な作品だったと思われます。
心に残らない旋律
ショパンの優美で上品,キャッチーな旋律は,ショパンの魅力の一つです。
ところがこの曲のメロディはどうでしょう。
同じ旋律が3回,少しずつ形を変えて繰り返されますが,まったく記憶に残りません。
ショパンの旋律を耳にしたときの,あの,胸の高鳴りがまったく感じられません。
旋律の始まりが,2回目は短縮され,3回目は長く引き伸ばされているところなどは工夫が感じられますし,転調しながら同じ旋律を繰り返すというのも本来ならば魅力的に感じる要素となります。
なのに,その旋律は聴くものの心に残ることはありません。この曲を鼻歌で歌うことは一生ないでしょう。
リズム感のない伴奏音型
低音でよく分からない音がずっと一定間隔でもっさりと鳴り続けています。
この伴奏音型には,心躍るリズム感が欠如しています。
この曲を聴いて,思わず首や手を振ってしまったり,足がリズムを刻んでしまったり,踊りだしてしまったりするような人はいないでしょう。
ショパンの作品とは思えない? ~グロテスクな世界~
この曲は不明瞭な調性が不安感を抱かせるだけでなく,音域の低さ,リズム感のなさなどが相まって,重苦しくおどろおどろしいグラテスクな世界が現れています。
ショパンといえば,華麗で洗練され,優雅でエレガント,繊細さ,詩情にあふれ,憂愁漂う旋律。
ショパンらしいエレガントで美しい1曲目から開始したこの曲集ですが,2曲目にしておよそショパンの作品とは思えない,異常な世界が現れました。
この曲は,音楽の3要素である,リズム,メロディー,ハーモニーが全て,耳に残らないはっきりしないものになっています。そして,ショパンはおそらくわざと考え抜いてそのように作曲しています。
当時の価値観にあてはめると,”音楽”だと認められるギリギリのラインを踏み越えてしまっているのではないでしょうか。
ピアノという最先端の楽器で鳴らされる,とても音楽とはいえない,得たいのしれない恐ろしい音の羅列。
第1曲目はショパンらしい,聴くものの期待通りの曲でした。でもあっという間にその美しい音楽は終わってしまいます。
前奏曲集が期待通りのショパンらしい作品であったことの喜びと,もっとショパンの音楽を聴きたい,次の曲はどんな美しい曲なのだろう,早く次の曲が聴きたい!という期待感。
そんな期待を完全に裏切るような第2曲目です。
はじめてこの曲集を耳にした当時の人々の驚きや戸惑いを想像すると興趣ひかれます。
そしてこの曲集が普通ではないものであることが予感されたことでしょう。
なんだこれは?これは本当にあのショパンが作曲したのか?この先はどうなってしまうんだ?と戸惑っているうちに,音楽的な満足を聴くものに与えぬまま,終わってしまいます。
2曲目にこんな曲を入れてしまう,ショパンのある意味挑戦的な,この曲集にかける意気込みと野心が伝わってきます。
ショパン 前奏曲 Op.28-2 版による違い
1~2小節目
- イギリス初版のみ4分の4拍子になっています。
これは間違いでしょう。 - フランス初版とイギリス初版では,左手の音型が声部分けされていません。
- フランス初版とイギリス初版では,冒頭「p(ピアノ)」が左手パートに書かれています。
5小節目
ドイツ初版のみ,長前打音が短前打音になっています(斜め棒が入っています)。
ドイツ初版では,この後出てくる全ての長前打音(10,17,20小節目)が短前打音になってしまっています。
これは間違いでしょう。
11小節目
- 自筆譜では,わざわざクレッシェンドの位置を書き直しています。
- フランス初版にはクレッシェンドがありません。
- ドイツ初版もイギリス初版もショパンの意図通り,右手の上にクレッシェンドがあります。しかし,クレッシェンドの開始と終了の場所が自筆譜とはずれています。
- エキエル版は,クレッシェンドが書き込まれている場所が,自筆譜とそっくり同じになっています。素晴らしい!
17-18小節目
どの版も13小節目から「dim.」が始まっていますが,終わる場所が少しずれています。
22小節目
フランス初版とイギリス初版は,アルペッジョが抜けています。
ショパン 前奏曲 Op.28-2 自筆譜を詳しく見てみよう!
全景
1ページ5段にきれいに収まっています。
1段目
- ローマ数字で「Ⅱ」
- 「Lento(レント)」の指示
Lentoの後に,何かを書いた後で消した跡が残っています。
「ma non troppo」と書こうとしてやめたのかな? - 2分の2拍子
- 冒頭に「p(ピアノ)」
- 左手伴奏の音型が,2つの声部で構成されていることが明記されています。
- ペダルの指示が書き込まれていません。
ショパンは,ペダルが必要ならば必ずペダルの指示を書き込みます。
暗に,ペダルなしで演奏することを指示しています。 - 繰り返し記号(%みたいな記号)が多用されています。
13小節目にdim.- – –
13小節目に「dim.(ディミヌエンド)」の指示。
ショパンの筆跡に慣れていないと読みづらいです。
– – – -で18小節目までdim.の指示が続いています。
18小節目にslentandoとペダル指示
- 18小節目に「slentando(スレンタンド)」;「だんだん遅く」の指示。
- 曲中唯一のペダル指示が18小節目2拍目から次の小節まで。
21小節目にsostenuto
21小節目から22小節目にまたがるように,「sostenuto(ソステヌート)」;「音符の長さを十分に保って」の指示。
そこかしこに訂正の跡
あちこちに,塗りつぶして訂正した跡が残っています。
クレッシェンドを書く場所を,わざわざ書き直しているところに,こだわりを感じます。
ショパン 前奏曲 Op.28-2 演奏上の注意点
左手の伴奏音型
左手の伴奏音型は,二つのパートに分かれていることを,ショパンは明記しています。
3小節目以降はパート分けでの表記を省略していますが,曲の最後まで,パートに分かれていることを意識して演奏するべきです。
伴奏のパートは,内側の声部(上記譜例のA)と外側の声部(上記譜例のB)で構成されています。
内側の声部(A)は少し浮き上がらせるように弾いた方が良いでしょう。
外側の声部(B)は音域広く離れている場合があります。後述しますがこの曲はほぼペダルなしで演奏するため,ぷつぷつと途切れてしまわないように気をつけます。
具体的には,上の譜例Cのように次の音が鳴るまでは,前の音を抑えたままにするのがベストです。
手の小さな演奏者はペダルを使って音を繋げるしかありませんが,音色が豊かになるほど踏み込んでしまうと,ショパンの意図から遠ざかってしまうので,極限まで浅く踏むように気をつけましょう。
ショパンのペダル指示は18-19小節目だけ。
ショパンがペダルの指示を書き込んでいるのは18-19小節目だけです。
ショパンはペダルの指示も熟慮の上,書き込んでいます。
ペダルの指示が書き込まれていないのは,暗にダンパーペダルなしで演奏することが指示されています。
なので,全体を通してペダルなしでの演奏が基本となります。
ただし,まったくペダルなしだと音が貧弱になるので,ほんの軽くだけペダルを踏んで,音が豊かに響くようにします。
ダンパーペダルの使用は,音が混ざって濁らないように細心の注意が要ります。
特にダンパーペダルの影響は低音部の方が出やすく,低音部は不協和音が多用されていて音が濁りやすいのでよく耳を澄ませてペダルを使用しましょう。
18-19小節目は,ショパンのペダル指示がありますから,他と比べて違いが分かる程度にペダルを深く踏みます。
手の小さな演奏者は,左手伴奏の外側のパートをレガートにするために,ペダルを使用することになると思います。これは仕方がないことなので,音の響きに注意を払って,必要最小限のペダル使用を心がけましょう。
ショパンの時代はピアノの鍵盤が細かった!ショパンの時代は,ピアノの愛好者には貴族の女性が多くいました。 現代のピアノはオクターブ(白鍵7個分)で約165mmです。 ピアノが誕生する前のチェンバロは規格が揃ってはいなかったようですが,イタリアのチェンバロでは3オクターブで約50cmだったということなので,現代のピアノとほぼ同じ鍵盤の幅があったようです。 その後誕生したフォルテピアノは鍵盤の細いものが多かったようです。 ロマン派の時代には貴族女性のピアノ愛好者が多かったですし,ショパンの手形が遺っていますが,決して大きな手ではありません。 広い音域に手が届くということは,オクターブの連続を余裕を持って弾いたり,広い音域の和音をアルペッジョなしで弾いたり,といったことができるようになります。 もっと広い音域に手が届けは,Op.10-1や10-11のエチュードがどれほど楽に演奏できることか・・・ やがてピアニストはリストなど,高身長で手の大きな男性ピアニストの評価が高くなり,三大ピアノメーカーのスタインウェイ,ベーゼンドルファー,ベヒシュタインは揃って,幅の広い鍵盤を標準規格とするようになりました。 また,金属フレームの誕生により,ピアノの弦はものすごい力で張られることとなり,力を込めれば込めるほど迫力ある大音量の出る,野性的な楽器となってしまいました。 現代のピアノは鍵盤の幅が広すぎるように思います。 もっと細い鍵盤のピアノが普及しても良いのにな,と願っております。 |
Steinbuhlerというアメリカのピアノメーカーが,鍵盤の細いピアノを制作,販売しているらしいです。
しかも,ピアノ鍵盤とハンマー部分だけ取り外して,通常のピアノに取り付けることが可能だとのこと。 実物を見たり触ったりしたことはないので,詳細は分かりませんが,これは心躍ります。 シューマンの交響的練習曲がアルペッジョなしで弾けるかも・・・
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Lento&p(ピアノ)で開始。でも遅すぎず,小さすぎず。
冒頭にLentoとp(ピアノ)の指示です。
最後,18小節目にslentado(だんだん遅く),21小節目にsostenuto(音符の長さを十分に保って、テンポを少し遅く)が控えています。
最初からテンポが遅すぎると,最後にそれ以上速度を緩めるのが難しくなります。
また,後半13小節目から息の長いdim.(ディミヌエンド)も待っています。
最初からあまり小さな音量で始めると,ディミヌエンドが表現できなくなります。
冒頭は,あまり遅すぎず,小さすぎず。
気をつけましょう。
5,10,17,20小節目の長前打音
長前打音が4回出てきます。
短前打音ではありませんから,音価が短くならないようにしましょう。
また,前打音を拍と同時にに演奏します。
上記譜例を参考にしてください。
当サイト管理人は,一番右の譜例のように弾いています。
11小節目のクレッシェンドは右手旋律のみ
11小節目のクレッシェンドは,自筆譜を見ると分かりますが,一度大譜表の真ん中に書き込んだクレッシェンドを,わざわざ消して,上段の上に書き直しています。
ショパンの意図をくみとって,左手伴奏の音量は変えずに,右手旋律(メロディっていっても,F♯音を4回鳴らすだけですが)のみクレッシェンドさせます。
13小節目以降~dim. slentando,sostenuto~
13小節目から18小節目まで,息の長いディミヌエンドが書かれています。
冒頭からp(ピアノ)で開始していますから,pからのディミヌエンドは表現が難しいです。
また,18小節目にslentando(だんだん遅く),21小節目にsostenuto(音符の長さを十分に保って、テンポを少し遅く)の指示も書かれています。
もともとLentoでゆっくり弾いていて,さらにテンポを遅くする必要があります。
前述しましたが,冒頭からあまり遅く,小さな音で弾いていると,13小節目以降の表現が不可能になります。
13小節目以降を意識して,冒頭では,遅すぎず,小さすぎず,演奏をはじめましょう。
22,23小節目のアルペッジョ
ショパンの両手によるアルペッジョは,
- 最低音(左手の5の指(小指)が鳴らす音)を最初に鳴らす
- 基本的には下の音から上の音へ順番に音を鳴らす
- 左手の上部の音(左手の1,2,3,の指で鳴らす音)と右手の下部の音(右手の1,2,3の指で鳴らす音)を同時に鳴らすことで,和音がきれいに響く場合はそのようにする。
これが基本です。
Op.28-2の最後の部分では,譜例のように弾くのがベストだと思います。
ショパン 前奏曲 Op.28-2 実際の演奏
当サイト管理人の演奏です。
※当サイト管理人,”林 秀樹”の演奏です。2020年11月25日録音。
◆Op.28-2のみ再生
◆24曲全曲再生リスト
本来,前奏曲集は24曲全曲を通して演奏するべきなのですが,今回は各曲の解説が目的なので,1曲ごとに区切って演奏を公開していきます。
ショパンの意図を忠実に再現しようとしています。
(なかなか難しいですが・・・)
ぜひ,お聴きください!
今回は以上です!