ショパン全作品一覧では,ショパンの全作品258曲を簡単に紹介しています。
各作品の詳細な解説はショパン作品解説にまとめていきます!
この記事では,失われてしまった作品やショパンの作品であることが疑わしい作品も含めて,ショパンのワルツ全27曲を漏らさずご紹介します。
ルドヴィカの作品目録にルドヴィカが書き遺した譜例も画像でご覧いただけるようにしています。
さらには,ルドヴィカの書き遺した譜面を楽譜作成ソフトで復元し,ご覧いただけるようにしています!
ぜひ最後までご覧ください!
ショパン全作品一覧【備考】
ショパン全作品一覧【備考】は全ページ同じ内容ですので,一度ご覧いただいた方は
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難易度
作品の演奏難易度というのは客観的に示すのは難しいため,
思い切って主観的に難易度を判定しました。
一般的なテンポで楽譜通り音を鳴らすメカニズムの難易度を,当サイト管理人の主観で判定しています。
メカニズムの難易度が低くても,音楽的に演奏するには高い表現力や構成力が必要な作品もありますが,
ここではメカニズムの難易度のみを判定しています。
バラードやソナタなど演奏時間が長い作品は,難易度を1~2ランク上に設定しています。
人気度
作品の人気度について,きちんと統計をとるのは難しいため,
当サイト管理人の独断で,各作品の人気度を判定しています。
演奏時間
一般的なテンポで演奏したときの,おおよその演奏時間を記載しています。
作品番号
- 作品番号Op.1からOp.65までは,ショパン自身がつけた作品番号です。
- 作品番号Op.66からOp.74までは,ショパンの死後に,フォンナタがつけた作品番号です。
- WN整理番号は,ナショナル・エディション(エキエル版)で付与されている番号です。
- ショパンが生前に出版しなかった作品に番号が付けられています。
旧版と新版で一部番号が異なりますが,新版の番号を掲載しています。 - 作品番号がつけられずにショパンの生前に出版された作品には,Dbop.がつけられています。
- ショパンが生前に出版しなかった作品に番号が付けられています。
- BI整理番号は,モーリス・ブラウンが作成した,作品目録の番号です。
- KK整理番号は,クリスティナ・コピラニスカが,全作品を分類した整理番号です。
- Ⅴa;個人所有などで入手不可能な作品
- Ⅴb;ルドヴィカの作品目録に存在が確認される,失われた作品
- Ⅴc;ショパンの手紙に存在が確認される,失われた作品
- Ⅴd;フォンタナとスターリングの手紙から存在が確認される,失われた作品
- Ⅴe;その他の出典から存在が確認される,失われた作品
- Ⅴf;少年時代の作品
献呈
ショパンの時代の社交界・音楽界では「献呈」という文化がありました。
「献呈」とは作曲家が作品を特定の個人に捧げる行為です。
献呈者の名前は初版楽譜の表紙に明記されます。
お気に入りの作曲家や人気の作曲家の作品の表紙に名前が記載されることは,
大変名誉なことだったでしょう。
作曲家が貴族の保護なしには活動ができなかった時代です。
お世話になっている貴族へ献呈の打診をし,楽譜表紙に名前を入れて,初版楽譜を贈呈する,という貴族とのお付き合いは,昭和時代の日本のお歳暮やお中元のように欠かせないものでした。
ショパンが作品を献呈した献呈者をみると「~公爵」「~令嬢」「~男爵夫人」などと貴族の名前がずらりと並びます。
また,ショパンの時代には音楽家どうしで互いに作品を献呈しあうことで友情を深めるという付き合いもありました。
エチュードOp.10をリストに献呈したり,バラードOp.38をシューマンに献呈したりしています。
「献呈」は作品を出版する際に行われる行為です。
ショパン自身が生前に出版したOp.1からOp.65までの作品以外には,正式には献呈者が存在しないことになります。
しかし,ショパンが生前に出版しなかった作品であっても,特定の人物に贈呈されていることが多いですので,その場合は献呈者として掲載しています。その際は「※正式な献呈ではない」と注釈を入れています。
ショパン ワルツ【生前に出版された作品 8曲】
Op.18 BI;62 華麗なる大円舞曲 変ホ長調
難易度 【2】アマチュアトップレベル
人気度 【5】有名作品
演奏時間 約5分
- 作曲;1831年(21才) *1833年(23才)かも
- フランス初版;パリ,M.シュレサンジェ 1834年
- ドイツ初版;ライプツィヒ,ブライトコップフ・ウント・ヘルテル 1834年
- イギリス初版;ロンドン,C.ウェッセル 1834年
- 献呈;ローラ・ホースフォード嬢
- 自筆譜;ベルギー,マリーモント博物館。1833年7月10日の日付が書き込まれている。
19世紀初頭,ウィンナ・ワルツの誕生!
「ワルツ」というのは18世紀末に誕生した舞曲で,1814年のウィーン会議をきっかけに社交界で大流行します。
1820年代に,ヨーゼフ・ランナー,そしてヨハン・シュトラウスⅠ世によって「ワルツ」の人気は決定的なものとなり,その後ヨハン・シュトラウスⅡ世によって「ワルツ」の人気は不動のものとなりました。
「ウィンナ・ワルツ」の誕生です。
その後,「ウィンナ・ワルツ」を発祥として様々なタイプの「ワルツ」が生まれたため,
21世紀の現代では「ウィンナ・ワルツ」は様々な種類の「ワルツ」の中の一種だと認識されていますが,ショパンがポーランドを発った1830年当時は「ワルツ」といえばすなわち「ウィンナ・ワルツ」のことでした。
「ウィンナ・ワルツ」の形式を完成させたのはヨーゼフ・ランナーで,序奏のあとに魅力的なメロディを聴かせる5つのワルツを組み合わせて,最後にコーダをつけ,さらにはキャッチーな曲名をつけるというスタイルが確立されました。
ポーランドを後にしたショパンは,モーツァルトやハイドン,ベートーヴェン,シューベルトが住んだ芸術の都ウィーンで音楽家として成功することを半ば確信していました。
Op.18「華麗なる大円舞曲」は,ランナーとシュトラウスの「ワルツ合戦」で盛り上がるウィーンでデビューするために用意してきたものだと考えてよいでしょう。
ところが「ワルツ合戦」に熱狂しているウィーン市民はポーランドからやってきた若い作曲家に興味を示すことはありませんでした。
また,ポーランドの支配者側であるウィーンでは,独立へ向けて決起しているポーランドを敵視する風潮が強く,ショパンはウィーンを旅立ちパリへ向かうこととなります。
ウィンナ・ワルツの形式に忠実に作られた「華麗なる大円舞曲」Op.18
以上のような背景から「華麗なる大円舞曲」Op.18は「ウィンナ・ワルツ」の形式に忠実に作られています。
短い序奏から始まり,魅力的なワルツが次から次へと奏でられ,最後は華々しいコーダで締めくくられます。
まさにウィンナ・ワルツの形式なのですが,変ホ長調の主部-変ニ長調と変ロ短調の中間部-再現部-コーダという三部形式になっているととらえることもできます。
ショパンは三部形式を好んでおり,やがてワルツも明確な三部形式で作るようになっていきます。
気軽に楽しみたい作品だが演奏難易度は高い
同音連打が多用されているため,ここをクリアに演奏できるかどうかが鍵になると思います。
同音連打は指遣いがポイントになります。
一度弾けるようになってしまえば他の作品にも応用できますから,譜面通りの指遣いでしっかりと反復訓練をすると良いでしょう。
また,ショパンの作品全体にいえることですが,音楽の土台となるのは左手の伴奏です。
どうしても華やかな右手が気になってしまいますが,より重要なのは左手の伴奏です。
ショパンは生徒たちに,伴奏を両手で演奏する練習をさせていました。
これは非常に効果の高い練習法です。
左手で伴奏を演奏しながら,右手旋律を声に出して歌うという練習法もオススメです。
Op.34 3つの華麗なる円舞曲
- フランス初版;パリ,M.シュレサンジェ 1839年
- ドイツ初版;ライプツィヒ,ブライトコップフ・ウント・ヘルテル 1838年
- イギリス初版;ロンドン,C.ウェッセル 1838年
Op.34 -1 BI;94 3つの華麗なる円舞曲 第1番 変イ長調
難易度 【2】アマチュアトップレベル
人気度 【4】名曲・代表作
演奏時間 約5分
- 作曲;1835年(25才)
- 献呈;ジョセフィーヌ・ド・トゥーン=ホーエンシュタイン伯爵令嬢
- 自筆譜;ワルシャワ音楽協会
Op.34-1も,序奏のあとに魅力的なワルツが次々とあらわれ華々しいコーダで終わるという,ウィンナ・ワルツの形式に忠実な構成になっています。
また,変イ長調の主部-変ニ長調の中間部-再現部-コーダというショパン好みの三部形式になっているととらえることもできます。
Op.18と同様に華やかなワルツですが,内容は格段に充実しています。
ワルツという気軽に楽しむ軽音楽のジャンルにおいても,ショパンの高い芸術性が発揮されています。
難易度の高い色々な奏法が使われています。
特定の奏法だけを集中訓練しても曲全体を弾けるようにはなりません。
何が苦手なものがあると,その箇所が崩れてしまうため,幅広い演奏技術が必要な作品です。
Op.34 -2 BI;64 3つの華麗なる円舞曲 第2番 イ短調
難易度 【1】アマチュアレベル
人気度 【4】名曲・代表作
演奏時間 約4分30秒
- 作曲;1831年(21才)
- 献呈;ディヴリィ男爵夫人
- 自筆譜;ロンドン,個人所有
詩情豊かな旋律美にあふれる傑作です。
ワルツの中でもショパンは特にこの曲を好んだといわれています。
哀愁漂うイ短調と同主調のイ長調とのあいだを移ろいゆき,曲の後半には平行調のハ長調やホ長調に転調し,物憂げな中にときおり暖かな光が差し込むような色彩豊かな和声がすばらしい作品です。
演奏難易度は高くないので,「ピアノの詩人」ショパンの入門曲としてオススメの作品です。
Op.34 -3 BI;118 3つの華麗なる円舞曲 第3番「猫のワルツ」 ヘ長調
難易度 【2】アマチュアトップレベル
人気度 【2】レア作品
演奏時間 約2分30秒
- 作曲;1838年(28才)
- 献呈;ダイヒタール男爵令嬢
- 自筆譜;行方不明
諧謔的な楽しいワルツです。
当サイト管理人の世代にとって忘れられないのは1985年の第11回ショパン国際コンクールでのスタニスラフ・ブーニンの演奏でしょう。
およそショパンのスタイルとはいえない演奏でしたが,そんな常識など吹き飛ばしてしまう歴史的な名演でした。
ブーニンの名演は鮮烈な印象を残しました。この演奏をきっかけに世界中で演奏されるOp.34-3のテンポが格段に速くなってしまったのではないかと思えるほどです。
Op.34-3を弾こうとすると,どうしてもブーニンっぽく弾きたくなっちゃいますよね。
難易度を としていますが,ショパンコンクールでのブーニンと同じテンポで演奏するとなると難易度は1ランク上がります。
本来はもっとゆとりを持って弾く作品です。そうすることでショパンらしいNobleな演奏になります。
往年の名演,ラフマニノフやルービンシュタインの演奏が残されていますから,聴いたことのない方は一度聴いてみてはいかがでしょうか。
Op.42 BI;131 ワルツ 変イ長調
難易度 【3】音大生レベル
人気度 【4】名曲・代表作
演奏時間 約3分30秒
- 作曲;1839年(29才)~1840年(30才)
- フランス初版;パリ,パッチーニ 1840年
- ドイツ初版;ライプツィヒ,ブライトコップフ・ウント・ヘルテル 1840年
- イギリス初版;ロンドン,C.ウェッセル 1840年
- 献呈;なし
- 自筆譜;行方不明
サロン音楽を芸術作品に至らしめた傑作
ピアニストとしてのショパンの活動の中心はサロンでした。
繊細なピアニズムのショパンは大ホールでの演奏は苦手でした。
当時,世界一のピアニストは誰かというと,満場一致でフランツ・リストがNo.1だと認知されていました。
そんなリストと唯一対抗しうる存在だと見なされていたのがショパンです。
大ホールの演奏会では絶大な人気を誇ったリストも,サロンにおいてはショパンにはかないませんでした。
当時,社交界で演奏される音楽はバックグランドミュージックにしか過ぎませんでした。
演奏家というのは,サロンの裏口からこっそり会場に入り,会話の邪魔にならないようにBGMを奏でるだけの存在だったのです。
もっともショパン自身は,仕立ての良い衣服に身を包み,自家用の馬車でサロンの玄関前に乗り付けて社交界に出入りしていましたが。
ショパンのワルツやノクターンはそんな「サロン音楽」の典型だと考えられていました。
もちろん,ショパンのワルツやノクターンがBGM以上の芸術的価値があることは社交界でも認識されていましたし,ショパンがサロンでピアノの前に座れば,会話を止め息を潜めてその美しい旋律に酔いしれたことでしょう。
とはいえ,大ホールで壮大に演奏される芸術作品とはまた別のモノと思われていたことも事実です。
Op.42のワルツは「サロン音楽」も芸術作品であることを決定づけ「サロン音楽」の地位を引き上げた記念すべき傑作です。
ショパンのワルツの最高傑作であり演奏も最も難しい
冒頭の長いトリルがいきなりの難所です。
粒がきれいにそろったトリルを静かに演奏するには手指の繊細なコントロールが必要です。
ヘミオラのリズムで作られた主部も,旋律を滑らかに歌い上げながら,中音域を軽やかにleggieroで演奏するのは高い技術がいります。
その後も,leggieroで広い音域にまたがる速いパッセージ,重音奏法,華やかなコーダなど,難易度の高い場面が続きます。
たった3分半の作品ですが,様々な演奏技術が要求される難易度の高い作品です。
Op.64 3つのワルツ
Op.64の3曲はショパンが生前に出版した最後のピアノ独奏曲です。
洗練された作曲技巧がさりげなくふんだんに盛り込まれている傑作です。
ショパンはOp.64の3曲のワルツをはじめ,マズルカOp.59,舟歌Op.60,幻想ポロネーズOp.61,ノクターンOp.62,マズルカOp.63,チェロソナタOp.65を書き上げた後は,
急速に体力も気力も衰えて作曲ができなくなります。
Op.64のワルツはショパンの芸術の最終到達点なのです。
Op.64は「序奏からはじまり様々なワルツを聴かせてコーダでしめくくる」というウィンナ・ワルツの形式にとらわれることなく,ショパンが愛した三部形式で作られています。
Op.64の3曲のワルツは,芸術的最高傑作であるにもかかわらず,技術的には演奏が容易で,
世界中のピアニストに愛奏されています。
Op.64 -1 BI;164 『小犬のワルツ(子犬のワルツ)』 変ニ長調
難易度 【2】アマチュアトップレベル
人気度 【5】有名作品
演奏時間 約2分
- 作曲;1846年(36才)~1847年(37才) *1840年(30才)には作曲をはじめていたか
- フランス初版;パリ,ブランデュ 1848年
- ドイツ初版;ライプツィヒ,ブライトコップフ・ウント・ヘルテル 1847年
- イギリス初版;ロンドン,クラーマー・アンド・ビール 1848年
- 献呈;デルフィーヌ・ポトツカ伯爵夫人
- 自筆譜;バーゼル,個人所有
- 他に,パリ国立図書館と,ロンドン王立音楽院が所蔵。
ショパンの作品の中でも最もよく知られた作品の一つです。
この曲がショパンの作品だと知らなくても,この曲を聴いたことがないという人はいないでしょう。
小犬の「マルキ」が自分のしっぽを追いかけ回していた様子から作曲されたというエピソードも有名です。
出版当時から現代まで多くの人々の心をつかみ,古今東西,様々な作曲家が小犬のワルツの編曲を書いています。
即興的に書いたように思える作品ですが,実は細部まで洗練された作曲技巧が用いられており,細部まで緻密に構築されています。
ショパンはときおり遊び心あふれる天真爛漫な作品を書いていますが,
『小犬のワルツ』はそんなイタヅラ心あふれる音楽の最後の作品であり,最高傑作です。
Op.64 -2 BI;164 ワルツ 嬰ハ短調
難易度 【2】アマチュアトップレベル
人気度 【5】有名作品
演奏時間 約3分30秒
- 作曲;1846年(36才)~1847年(37才) *1840年(30才)には作曲をはじめていたか?
- フランス初版;パリ,ブランデュ 1848年
- ドイツ初版;ライプツィヒ,ブライトコップフ・ウント・ヘルテル 1847年
- 献呈;ド・ロスチャイルド男爵夫人
- 自筆譜;バーゼル,個人所有
- 他に,パリ国立図書館が所蔵。
- さらにスケッチをパリ,オペラ座図書館が所蔵。
「小犬のワルツ」と同様に広く知られた名曲です。
ショパンのワルツの最高傑作はOp.64-2だ,という方も多いでしょう。
「ショパンのワルツはウィンナ・ワルツではない」という意見もありますが,そもそもショパンの時代はワルツが誕生したばかりで,「ワルツ」といえばすなわち「ウィンナ・ワルツ」のことでした。
ウィンナ・ワルツの特徴の一つに,独特なリズムがあります。
「ブン,チャッ,チャ」と一定の感覚でリズムを刻むのでなく,
1拍目は短く,2拍目が前に出てくるのが特徴です。
Op.64-2の冒頭にショパンは「Tempo giusto;正確なテンポで」と書いています。
この「Tempo giusto」が何を意味しているのか,様々な意見がありますが,
当サイト管理人は「ウィンナ・ワルツのリズム,つまりは Tempo di Valse ではなくて,一定のリズムで演奏するように」という意味で書かれているのだと解釈しています。
「ワルツ」であるにも関わらず,テンポを均等に3等分するというのは,画期的なことだったのではないでしょうか。
現代ではどちらかというとテンポを一定にワルツを演奏するのが一般的になっていますが,
当時はウィンナ・ワルツのリズムで演奏するのが当たり前だったのです。
短調のワルツといえば,ゆったりとしたテンポで哀愁漂う旋律を歌う形式になるのが普通でした。
短調の曲想にウィンナ・ワルツの心躍るようなリズム感がそぐわないからです。
ところがOp.64-2ではウィンナ・ワルツの独特なリズムをなくしてテンポを一定に保つことで,速いテンポでリズムカルでありながら,しっとりと叙情的な短調のワルツが誕生しています。
そして中間部では長調のワルツでありながらスローテンポで,静かな儚さに満ちた美しい音楽が創り出されています。
- 叙情的な速いテンポの短調のワルツ
- 儚くも美しいスローテンポの長調のワルツ
という画期的な発明が組み合わされた傑作です。
そして,この画期的な発明は「Tempo guisto」によって実現されているのです。
Op.64 -3 BI;164 ワルツ 変イ長調
難易度 【2】アマチュアトップレベル
人気度 【3】隠れた名曲
演奏時間 約2分30秒
- 作曲;1846年(36才)~1847年(37才) *1840年(30才)には作曲をはじめていたか?
- フランス初版;パリ,ブランデュ 1848年
- ドイツ初版;ライプツィヒ,ブライトコップフ・ウント・ヘルテル 1847年
- イギリス初版;ロンドン,C.ウェッセル 1848年
- 献呈;カトリーヌ・ブラニツカ伯爵令嬢
- 自筆譜;バーゼル,個人所有
- 他に,スケッチをパリ,オペラ座図書館が所蔵
Op.64の3曲の中では,人気作品の2曲のかげに隠れてあまり目立ない作品ですが,傑作です。
当サイト管理人は大好きな曲で,小学生のころピアノの発表会で弾いた思い出の作品です。
当サイト管理人のようなアマチュアには和声分析が不可能なほど転調をくりかえし,
うつろいゆく色調が儚げに美しく奏でられる名作です。
ショパン ワルツ【ショパンの死後にフォンタナが校訂して出版した作品 5曲】
フォンタナは未出版のワルツを5曲選出して,2曲と3曲に分けてOp.69,Op.70として出版しています。
この2曲と3曲の分け方ですが,特に根拠なく分けたものと思われます。
Op.69 -1 WN;47 BI;95 「別れのワルツ」 変イ長調
難易度 【1】アマチュアレベル
人気度 【5】有名作品
演奏時間 約4分
- フランス初版;パリ,J.メソニエ 1856年
- ドイツ初版;ベルリン,A.M.シュレジンガー 1855年
※出版されたのはフォンタナが手を加えたバージョンです。
このページでは「フォンタナ・バージョン」と呼称します。
- バージョン0
- おそらく最も初期の自筆譜があったと思われますが,この自筆譜は失われています。
この自筆譜から写したと思われる写譜がいくつか遺されています。
完成原稿というよりは,草稿に近いものだったのだと思います。
- おそらく最も初期の自筆譜があったと思われますが,この自筆譜は失われています。
- バージョン1
- 献呈;マリア・ヴォジニスカ ※正式な献呈ではない。
- 作曲;1835年(25才)
- 自筆譜;紛失。ワルシャワのショパン協会がコピーを所蔵
- バージョン2
- 献呈;ペルッツィ夫人 ※正式な献呈ではない。
- 作曲;1837年(27才)
- 自筆譜;ワシントン,ダンバードン・オークス調査資料室
- バージョン3
- 献呈;シャルロット・ド・ロスチャイルド嬢 ※正式な献呈ではない。
- 作曲;1842年(32才)
- 自筆譜;パリ国立図書館
- フォンタナ・バージョン
通称「別れのワルツ」は,自筆譜や自筆譜のコピー(写真),写譜など,実に10種類ほどの資料が遺されています。
多くの出版譜に収録されていて一般によく知られているのはフォンタナが大幅に手を入れた「フォンタナ・バージョン」です。
フォンタナ・バージョンは,確認できる自筆譜や写譜のどれと比べても大幅に変更されていて,校訂というよりももはや編曲に近い編集がされてしまっています。
「別れのワルツ」と呼ばれるこの作品ですが,婚約者であるマリア・ヴォジニスカに送った作品ですので,幸せな結婚生活を夢見て書かれた作品です。
その後,マリアの両親から婚約を破棄されてしまい,マリアとの恋愛が成就することがなかったため,いつしか「別れのワルツ」と呼ばれるようになりました。
稀代のメロディーメーカーであるショパンが書いた旋律が美しく,屈指の人気曲となっています。
Op.69 -2 WN;19 BI;35 ワルツ ロ短調
難易度 【1】アマチュアレベル
人気度 【2】レア作品
演奏時間 約3分30秒
- ポーランド初版;I. Wildt,クラコフ 1852年 *バージョン2
- フランス初版;パリ,J.メソニエ 1856年 *フォンタナ・バージョン
- ドイツ初版;ベルリン,A.M.シュレジンガー 1855年 *フォンタナ・バージョン
- バージョン1
- 献呈;ヴィルヘルム・コールベルク ※正式な献呈ではない。
- 作曲;1829年(19才)
- 自筆譜;紛失。クラコフのヤギエウォ図書館が写譜を所蔵。
- バージョン2
- 献呈;プラテール伯爵夫人 ※正式な献呈ではない。
- 作曲;1844年(34才)
- 自筆譜;紛失
- ポーランド初版の元になったと考えられています。
- フォンタナ・バージョン
Op.69-1と同様に,多くの自筆譜や写譜が遺されています。
多くの出版譜に収録されていて広く知られているのはフォンタナ・バージョンになります。
「バージョン1」の自筆譜に近い譜面になっていて,他のフォンタナ版と比べると原曲に近い編集です。
しかし,そこかしこで常識的な和声に書き換えられてしまっていて,ショパンのオリジナルを聴いてしまうと,フォンタナ版は面白みのない響きに感じられてしまいます。
1829年,19才の作品で,ちょうどコンスタンツィア・グラドコフスカへの初恋に心を焦がしていたころで,ウィーンへの演奏旅行が成功を収めた年の作品です。
いたってシンプルな作りながらショパンの美しい旋律が堪能できる良い作品です。
Op.70 -1 WN;42 BI;92 ワルツ 変ト長調
難易度 【2】アマチュアトップレベル
人気度 【2】レア作品
演奏時間 約2分
- フランス初版;パリ,J.メソニエ 1856年
- ドイツ初版;ベルリン,A.M.シュレジンガー 1855年
- 献呈;なし
※出版されたのは「フォンタナ・バージョン」です。
- バージョン1
- 作曲;1832年(22才)
- 自筆譜;ニュー・ヘヴン,イェール大学
*「パリ,1832年8月8日」と書かれている。
- バージョン2
- 作曲;1833年(23才)
- 自筆譜;パリ,トワリー城(Château de Thoiry)
- フォンタナ版
- もう1種類,失われた自筆譜があったらしく,フォンタナはその自筆譜を改変してフランス初版を出版しています。
Op.70-1も,フォンタナ版だけ大きく異なっています。
元となった自筆譜が失われているため確認ができませんが,例によって大幅に手を加えているものと考えられます。
1832年の8月の作曲ですので,ピアノ教授の仕事が軌道に乗り,パリでの生活が落ち着いてきたころの作品になります。
軽快で楽しい主部と美しい和声の中間部からなる良作です。
しかし,調号が多いため譜読みが難しく,トリルや跳躍が弾きにくいため難易度の高い作品です。
Op.70 -2 WN;55 BI;138 ワルツ ヘ短調
難易度 【1】アマチュアレベル
人気度 【2】レア作品
演奏時間 約2分
- フランス初版;パリ,J.メソニエ 1856年
- ドイツ初版;ベルリン,A.M.シュレジンガー 1855年
- バージョン1
- ロスチャイルド家 ※正式な献呈ではない。
- 自筆譜;パリ国立図書館
- バージョン2
- エステルハージ伯爵夫人 ※正式な献呈ではない。
- 自筆譜;ロワイヨモン修道院,フランソワ・ラング
ショパンによる鉛筆の書き込みが遺されていて,レッスンで使用していたことが分かります。
- バージョン3
- 献呈;マリー・ド・クルトナー嬢 ※正式な献呈ではない。
- 自筆譜;パリ国立図書館
「パリ,1842年12月8日」と書かれています。
唯一Allegrettoとテンポ指示が書かれています。
- バージョン4
- 献呈;ウーリ夫人(アンネ・カロリーネ・ウーリ) ※正式な献呈ではない。
- 自筆譜;ウィーン,個人所有。ワルシャワのショパン協会がコピーを所蔵。
「パリ,1842年12月10日」と書かれています。
- バージョン5
- 献呈;エリーズ・ガヴァール嬢 ※正式な献呈ではない。
- 自筆譜;パリ国立図書館
- フォンタナ・バージョン
自筆譜だけでも5種類も遺されています。自筆の楽譜を生徒にプレゼントしてレッスンで使用していたようです。
上流階級とのお付き合いが順調であった証です。
1841年の作曲は,あまり目立たない作品が多い年です。
精神的に落ち着きがなかったころで,ショパンがイライラしている様子はサンドの手紙にも書き残されています。
円熟期の作曲とは思えないシンプルで地味な作品ですが,美しい優美な旋律はさすがショパンといったところです。
Op.70 -3 WN;20 BI;40 ワルツ 変ニ長調
難易度 【1】アマチュアレベル
人気度 【2】レア作品
演奏時間 約2分30秒
- 作曲;1829年(19才)
- フランス初版;パリ,J.メソニエ 1856年
- ドイツ初版;ベルリン,A.M.シュレジンガー 1855年
- 献呈;なし
- 自筆譜;紛失
当サイト管理人が大好きな,ショパンの変ニ長調です。
コンスタンツィア・グラドコフスカに夢中になっていたころの作品で,
ティトゥス宛に「彼女のことを想いながらワルツを書いた」と手紙を書いています。
この手紙には,中間部の左手の旋律が高音になっているのが,コンスタンツィアへの想いをあらわしていると書かれています
ショパン ワルツ【後年に出版された作品 6曲】
WN;18 BI;44 KK;IVa-12 ワルツ ホ長調
難易度 【1】アマチュアレベル
人気度 【2】レア作品
演奏時間 約2分
- 作曲;1829年(19才) *1830年(20才)かも。
- ドイツ初版;ライプツィヒ,ブライトコップフ・ウント・ヘルテル,旧全集版・第XIII巻 1880年
- 他国初版;クラコフ,W.ハベルスキ 1871年
- 献呈;なし
- 自筆譜;紛失
コンスタンツィアへの初恋に思い悩んでいるころの作品です。
主要作品でもなければ,傑作でもありませんが,ショパンらしい気品に満ちた愛らしい作品です。
WN;28 BI;21 KK;IVa-13 ワルツ 変イ長調
難易度 【1】アマチュアレベル
人気度 【2】レア作品
演奏時間 約2分
- 作曲;1827年(17才)~1830年(20才)
- ドイツ初版;ライプツィヒ,ブライトコップフ・ウント・ヘルテル,旧全集版・付録 1902年
- 献呈;エミリア・エルスナー嬢 ※正式な献呈ではない。
- 自筆譜;ワルシャワ音楽協会
8分の3拍子で書かれているというのが特筆すべき特徴でしょう。
無窮動的で,戯れるような楽しい作品です。
BI;46 KK;IVa-14 ワルツ 変ホ長調
難易度 【1】アマチュアレベル
人気度 【2】レア作品
演奏時間 約3分
- 作曲;1829年(19才)
- ドイツ初版;ライプツィヒ,ブライトコップフ・ウント・ヘルテル,旧全集版・付録 1902年
- 献呈;なし
- 自筆譜;紛失
エキエル版に何故か収録されていない作品です。
エキエル版全37巻を購入しても,どこにも収録されていません。
ショパンの作品として疑わしいところもありませんし・・・何故なんでしょうね??
3オクターブにわたってゆったりと上下行するという特徴的な音型で作られています。
WN;29 BI;56 KK;IVa-15 ワルツ ホ短調
難易度 【2】アマチュアトップレベル
人気度 【5】有名作品
演奏時間 約2分30秒
- 作曲;1830年(20才)
- ドイツ初版;マインツ,B.ショット 1868年
- 他国初版;ワルシャワ,J.カウフマン 1868年
- 献呈;なし
- 自筆譜;行方不明
ショパンのワルツの中でも1,2を争う人気曲です。
ショパンが生前に出版しなかっただけでなく,フォンタナも出版をしなかったというのが信じられない傑作です。
世に出ることなく失われてしまうようなことがなくて,本当に良かったと想います。
短調の情熱的なワルツというのは,作曲された1830年当時には大変前衛的な着想だったと思われます。
20才の青年がなぜそんな着想に至ったのか,そもそもマズルカではなくて何故ワルツだったのか,大変興味のあるところです。
高い演奏技術の必要な作品ですが,その分演奏効果も高いですので,練習しがいのある作品でしょう。
WN;53 BI;133 KK;IVb-10 「ソステヌート」 変ホ長調
難易度 【1】アマチュアレベル
人気度 【2】レア作品
演奏時間 約2分
- 作曲;1840年(30才)
- イギリス初版;ロンドン,フランシス・デイ・アンド・ハンター 1955年
- 献呈;エミール・ガイヤール
- 自筆譜;パリ音楽院 *「パリ,1840年7月20日」の日付が書かれている。
楽譜でも録音でも,ワルツ集の中に入れられていることが多いですが,ショパンはワルツではなく「ソステヌート」としか書いておらず,形式もワルツの形式にはなっていません。
シンプルながら旋律の美しい作品です。
WN;63 BI;150 KK;IVb-11 ワルツ イ短調
難易度 【1】アマチュアレベル
人気度 【2】レア作品
演奏時間 約2分
- 作曲;1843年(33才) *1837年(27才)かも
- 初版;パリ,ルヴェー・ムジカル誌 1955年
- 献呈;なし
- 自筆譜;パリ国立図書館
作曲年は諸説あります。しかもその説は1825年(15才)から1848年(38才)まで幅広い年代に広がっています。
1817年,1827年,1837年と,18○7年という説が目につきます。
際立った特徴のないシンプルな作品ですが,その叙情的な旋律は美しいです。
ショパン ワルツ【自筆譜が個人所有されているため譜面が入手できない作品 1曲】
BI;166 KK;Va-3 ワルツ ロ長調
難易度 【0】不明
人気度 【1】マイナー作品
演奏時間 不明
- ※未出版 個人所有のため入手不可能。
- 作曲;1848年(38才)
- 献呈;キャサリン・アースキン夫人 ※正式な献呈ではない。
- 自筆譜;ロンドン,個人所有。 革装の本の表紙のファクシミリのみショパン協会が所蔵。
自筆譜はロンドンの個人が所有しているとのことで,ショパン協会も表紙のコピーしか所蔵しておらず,譜面がまったく確認できない作品です。
存在を示唆する情報そのものが少なく,よほどのショパン愛好家でなければ存在さえ気づくことのない作品です。
最晩年の1848年,38才の作品で,イギリスの演奏旅行中に作曲されたのでしょう。
自筆譜はイギリスを案内していたジェーン・スターリングの姉,キャサリン・アースキン夫人に贈呈されているそうです。
おそらく今もスターリング家の子孫が所蔵しているのではないかと思います。
ショパンは1847年に気力も体力も急速に衰えており,1848年にはこのロ長調のワルツしか作曲していません。
そして翌年1849年にマズルカOp.67-2とOp.67-4を書いて亡くなっています。
ショパンが最晩年に作曲した特別な作品です。
当サイト管理人は死ぬ前に一目で良いので譜面を見たいと切に願っております。
どうか,コピーか写真を公開していただけないでしょうか・・・
いつかこのメッセージが届くことを祈って,定期的に願いを書き続けていこうと思っています。
ショパン ワルツ【失われた作品(ルドヴィカの作品目録に収録) 6曲】
ショパンの姉ルドヴィカは,ショパンの作品目録を書き遺しています。
そこにはルドヴィカ自身の手によって数小節の譜例が書き遺されていて,失われてしまった作品の様子を窺い知ることができます。
ここでは,ルドヴィカが書き遺した譜面とともに,楽譜作成ソフトで清書した譜面もご覧いただけるようにしました。
BI;12B KK;Vb-3 ワルツ ハ長調
- 作曲;1826年(16才)
- 献呈;なし
- 自筆譜;紛失
※ルドヴィカの作品目録第3ページ第1番
難易度 【0】不明
人気度 【1】マイナー作品
演奏時間 不明
4分の3拍子なのに,実際は8分の3拍子で書かれています。
KK;Vb-4 ワルツ 変イ長調
- 作曲;1827年(17才)
- 献呈;なし
- 自筆譜;紛失
※ルドヴィカの作品目録に収録。
1827年夏,ショパンが家族に宛てた手紙の中に記述あり。
難易度 【0】不明
人気度 【1】マイナー作品
演奏時間 不明
KK;Vb-5 ワルツ 変イ長調
- 作曲;1830年(20才)
- 献呈;なし
- 自筆譜;紛失
※ルドヴィカの作品目録に収録。
1830年のショパンの手紙に書かれているワルツだと推測される。
難易度 【0】不明
人気度 【1】マイナー作品
演奏時間 不明
4分の3拍子でありながら,実際は8分の3拍子で書かれています。
KK;Vb-6 ワルツ ニ短調
- 作曲;1828年(18才)
- 献呈;なし
- 自筆譜;紛失
※ルドヴィカの作品目録第3ページ第6番
難易度 【0】不明
人気度 【1】マイナー作品
演奏時間 不明
実際に弾いてみるとワルツよりもマズルカに近いです。
KK;Vb-7 ワルツ 変ホ長調
- 作曲;1830年(20才)
- 献呈;なし
- 自筆譜;紛失
※ルドヴィカの作品目録に収録。
難易度 【0】不明
人気度 【1】マイナー作品
演奏時間 不明
KK;Vb-8 ワルツ ハ長調
- 作曲;1824年(14才)
- 献呈;なし
- 自筆譜;紛失
※ルドヴィカの作品目録に収録。
1831年という作曲年代が線で消されて,1824年に書き換えられている。
難易度 【0】不明
人気度 【1】マイナー作品
演奏時間 不明
ショパン ワルツ【ショパンの作品であることが疑わしい作品 1曲】
KK;Anh.Ia-7 憂鬱なワルツ(ワルツ・メランコリック) 嬰ヘ短調
難易度 【2】アマチュアトップレベル
人気度 【1】マイナー作品
演奏時間 約3分
- 初版;ニューヨーク,シュレーダー・アンド・ガンザー 1932年
- 献呈;なし
- 自筆譜;行方不明
※Valse Melancolique Chopin(??) と書かれた筆写譜がある。
シャルル・マイヤーの『後悔』Op.332という曲を改変したもので,185小節のワルツです。
疑わしいというよりも,ショパンの作品ではないことが明らかな作品です。
嬰ヘ長調で書かれているあたりが何ともショパンの作品っぽいですが,シャルル・マイヤーという作曲家の作品であることが判明しています。
たまにショパンのワルツとして演奏会で取り上げられたり,CDに収録されていたりします。
ショパンのワルツの中で比べると規模の大きな曲で,技術的に弾きにくい場所も何箇所かあります。
今回は以上です!