2025年ショパンコンクールの採点結果をまとめていきます
2025年10月に開催された第18回ショパンコンクールの各予選・本選で,審査員によって与えられた個々のスコア(採点結果)が10月29日に公表されました。
公開されたデータはPDFファイルなので,並び替えや集計などの編集ができません。
それでは不便ですので,データベース化しました。
当サイト管理人が個人的に使用するために作ったデータですが,利用される方もいらっしゃるかと思いますので,データを順次公開していきます。
コンクールのスコアには,採点される側も,採点する側も,深い思いが込められています。
安易に扱って良いものではありません。
しかし,ピアノ学習者やピアノ教師にとっては大変貴重な情報です。
- ショパンコンクールは世界最高峰のピアノコンクールである
- コンテスタントの演奏がすべてYou Tubeにアーカイブされている
- スコアが公開されている
どんなに才能があっても,楽しんでピアノを弾いているだけではプロのピアニストにはなれません。
職業ピアニストを目指すのならば,多くの一般聴衆に認められるだけでなく,然るべき人たちに認められる演奏ができなければ世界の舞台には立てません。
ショパンコンクールは採点結果を見ながらアーカイブされている演奏を聴くことができます。
「すごく良い演奏なのに,なぜこんなに採点結果が悪いのだろう」「採点結果が良いのに,その演奏の良さがわからない」と感じることがあると思います。
「自分の耳が正しくて,審査がおかしいのだ」と捉えていては,自己満足の世界に閉じこもることになります。
多くの人々の心に届く音楽を演奏するためのヒントが,世界最高峰のコンクールの審査員たちが残した採点表に隠れています。
この記事では,まず審査方式の変更点についてまとめます。
第19回ショパンコンクール2025 審査方式の概要
2025年10月に開催された第19回ショパンコンクールの審査方式では,これまでの方式からいくつか重要な変更が加えられました。
これらの変更点とあわせて,審査方式の概要をまとめます。
点数制のみでの審査に変更
これまでは,Yes/No 方式と 25 点満点の採点を併用していました。
そして,Yes/No 方式を優先させていました。
しかし,今大会では点数制に絞って審査されました。
25点満点の点数の目安
各審査員が25点満点の点数をつける際の採点基準として,大まかな目安が示されています。
| 点数 | 評価 | |
|---|---|---|
| 25 | Perfect | 完璧 |
| 23-24 | Exceptional | 卓越している |
| 18-22 | Very good | 非常に良い |
| 16-17 | Good | 良い |
| 12-15 | Average | 平均的 |
| 6-11 | Below average | 平均に劣る |
| 1-5 | Poor | 劣っている |
極端な評点は”算術的に調整”
各審査員は,出場者1人につき 1〜25点 の整数で評価します。
そして,これまでも同様の25点制でしたが,今大会からは「極端な点数」を自動補正する仕組みが導入されました。
- 第1次予選では,平均点から±3点以上離れた採点があった場合,境界値に補正する。
- 第2次・第3次および本選では,平均点から±2点以上の乖離がある場合に補正する。
つまり,他の審査員とかけ離れた極端な高得点・低得点は自動的に調整され,個人の主観による偏りを防ぐ仕組みとなっています。
また,各審査員の「弟子・生徒(Student)」に該当する出場者については採点せず,スコアシートに “S” と記入します。
その分は平均点計算から除外されます。
Student(弟子・生徒)の定義
「Student(弟子)」の定義については大きな変更点はなく,従来通りの扱いとなっています。
- 現在,審査員のもとで正式に学んでいる者
- 2021年の前回大会以降,半年以上の期間,定期的に学んでいた者
- 審査の公正性に影響を与えるほどの個人的関係がある場合
一方で,マスタークラスやオンラインレッスンなどの短期的な関わりは「Student」には含まれません。
各審査員が,弟子に該当する参加者を採点した場合はルール違反と見なされ,解任の対象となります。
累積方式の採用
今大会では,次のラウンドへの進出を判定する際に,累積方式が採用されました。
各ラウンドの結果は単独の点数としてだけでなく,次のラウンドへの進出や最終順位において,以下のような重み付け(weighting)が適用されます。
| 目的 | 各ラウンドの比率 |
|---|---|
| 3次予選への進出判定 | 第1次 30% / 第2次 70% |
| 本選への進出判定 | 第1次 10% / 第2次 20% / 第3次 70% |
| 最終順位の決定 | 第1次 10% / 第2次 20% / 第3次 35% / 本選 35% |
累積方式が採用されたことにより,後半のステージの比重が大きく設定されているとはいえ,1次予選や2次予選の演奏の出来不出来が最終順位にまで影響を及ぼすこととなりました。
各ラウンドでの審査結果は”氏名なし”で審査員に公表される
各ラウンドでの審査結果ですが,審査員でさえ”氏名なし”で公表されます。
つまり,各ラウンドで1位で通過したのは誰なのか,とか,誰がギリギリで通過したのか,といった途中結果は審査員にも分からないようになっています。
演奏順の新ルール “6文字ずつのシフト制”
これまでと異なり,今大会では各ラウンドの開始順が6文字ずつアルファベットをずらす方式となりました。
- 第1次予選:抽選で決まった1文字から開始
- 第2次予選:その6文字後のアルファベットから開始
- 第3次予選:さらに6文字後
- 本選:さらに6文字後
そして抽選の結果,1次予選は「T」から開始となりました。
ここから6文字ずつずらしていきますので,
第2次=「Z」→ 第3次=「F」→ 本選=「L」からの開始となりました。
この方式は,各ラウンドで出場順の偏り(たとえば「朝ばかり」「夜ばかり」になる)を防ぐことになりました。
まとめ
今回は2025年に開催された第19回ショパンコンクールの審査方式の概要をまとめました。
今大会では,Yes/No方式をなくしたり,累積方式が採用されたりと,審査方式に重大な変更がありました。
その結果,現地でも「新しい採点方法を採用したところ,審査員の直感とかけ離れた結果が出ていて,審査員たちも戸惑っている」と批判の声が上がっているようです。

以下は当サイト管理人の個人的な感想となります。決してショパンコンクールの審査方式や,今大会の上位入賞者への批判ではありません。
1次予選,2次予選と進むごとに,当サイト管理人は,16歳の中国人ピアニスト Tianyao Lyu さんの演奏に魅了されました。
”ショパン演奏の典型・手本”としてピアニストたちに示すべき理想に近いスタイルを持っていて,
それだけでなく,演奏者自身の個性や魅力がその演奏から伝わってきました。
審査員や音楽評論家などからも「彼女に1位を贈るべきだった」との意見が相次いでいるようです。
当サイト管理人も完全に同意します。
しかし,当サイト管理人は,若干16歳のピアニストを,審査員が正当に評価するのか,過剰に心配していました。
実際は,無事に本選に出場を果たし,彼女の本選の演奏を堪能できて,見事4位に入賞となりました。
彼女の演奏がわずか4位に留まったことは遺憾ではありますが,過小に評価されすぎているとも言えず,
ショパンコンクールの審査基準は,決して地に落ちてはいないと感じました。
ショパンコンクールは,他のコンクールと同様に「新しい才能を発掘する」という側面があります。
しかしショパンコンクールは「ショパンの音楽にふさわしい模範となるべき演奏を世界に示す」という他のコンクールにはない特別な使命があります。
その意味で,1位入賞となったEric Lu さんの演奏は,ピアニストとして特別な才能を持っていることは確かですが,
ショパンの音楽の演奏として模範となる演奏だったのかというと,
大きな疑問を抱いてしまいます。
各審査員が各ラウンドでどのような採点をしたのか。
次の記事から詳しくお伝えしていきます。






