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※当サイト管理人,”林 秀樹”の演奏です。2020年11月25日録音。
◆Op.28-14のみ再生
◆24曲全曲再生リスト
ショパン 前奏曲 Op.28-14 概要
一瞬で通り過ぎる醜怪な音楽
第12番,第13番と,力の入った作品が続きました。
そして,いよいよ曲集前半のクライマックス,第15番と第16番がやってきます。
間に挟み込まれている第14番は,一瞬で過ぎ去ってしまう短い作品です。
醜怪で重々しいオクターブのユニゾン。
第2番に匹敵するグロテスクな世界です。
この曲を単独で演奏しても,なんら完結した芸術表現はなされません。
ショパンらしからぬ,不快でおどろおどろしい作品です。
夢のように美しい第13番との対比がすばらしく,
さらには,第15番”雨だれの前奏曲”の甘美さを最大限引き出します。
ショパンらしからぬ不気味な音楽が,この場所に配置されているからこそ絶大な効果を発揮しています。
第13番と第15番の美しさが際立ち,曲集全体の完成度を高めています。
ショパンが5曲しか遺していない変ホ短調
第12番,第13番に続き,第14番の変ホ短調もショパンがあまり使わなかった調です。
ショパンは変ホ短調の作品を5曲しか書いていません。
変ホ短調の作品は,他にエチュードOp.10-6,マズルカOp.6-4,ポロネーズOp.26-2があります。
ソナタ第2番第4楽章に似ている?
ソナタ第2番Op.35の第4楽章と似ている,と言われることが多いです。
確かに終始ユニゾンの3連符が続くため,楽譜の見た目はそっくりです。
しかし,曲想はまったく違います。
ソナタ第2番の終楽章は,究極の無窮動の世界です。
終始Presto,sotto voce e legato(;ささくように小さな音でなめらかに)で,クレッシェンドやディミヌエンドの指示もありません。
感情の起伏や色彩の変化などが皆無の無彩色の世界です。
しかし,前奏曲Op.28-14はAllegroで,pesante(;重々しく)。
クレッシェンドとディミヌエンドを繰り返します。
奇怪な情念が徐々に膨れ上がり,やがてはff(フォルテシモ)にいたります。
ソナタ第2番の第4楽章とはちがい,
燃え上がるような激情があふれています。
ショパン 前奏曲 Op.28-14 構成
変ホ短調,Allegro,2分の2拍子。
冒頭にpesante;重々しく。
19小節のみの小品です。
目立つ形式はありません。
前半(1~10小節目)+後半(11~19小節目)の2部形式と考えて良いでしょう。
5~10小節目を中間部ととらえれば3部形式になります。
19小節目はE♭を1回鳴らすだけのコーダだと考えることもできます。
ショパン 前奏曲 Op.28-14 版による違い
自筆譜が丁寧に書かれているため,各初版とも(めずらしく)ほとんど違いがありません。
冒頭
自筆譜を見れば明らかに”2分の2拍子”で書かれています。
しかし,フランス初版,イギリス初版では4分の4拍子に間違えられ,
この間違いはミクリ版やコルトー版など権威ある出版譜にも受け継がれてしまっています。
AllegroではなくてLargo?
ジェーン・スターリングがレッスンで使用していた楽譜には,ショパンがAllegroを消して,Largoに書き換えた書き込みが遺っています。
おそらく練習のための指示が遺ってしまっているだけだと思われます。
ゆっくり練習しようね。
はい。ショパン先生。
5小節目 ♮が抜けている
5小節目,自筆譜には必要な♮が抜けています。
フランス初版とドイツ初版でも抜け落ちています。
ジェーン・スターリングがレッスンで使用していたフランス初版に,ショパン自身がナチュラルを書き込んでいます。
イギリス初版では正しく修正されており,現在出版されている楽譜も,きちんと修正されたものがほとんどです。
14小節目 E♭♭
14小節目の,8番目の音符です。
自筆譜も,各初版も,違いはありません。
8番目の音は明らかに,Eのダブルフラット(=D音)が正解です。
しかし,現在出版されている多くの楽譜で,わざわざ臨時記号を付け加えてE♭に変更してしまっています。
この変更はまったく根拠のない勝手な変更です。
自筆譜通りダブルフラットのまま演奏するべきです。
ショパン 前奏曲 Op.28-14 自筆譜を詳しく見てみよう!
全景
丁寧に記譜されています。
完成したスケッチから写した清書ではないかと思います。
強弱記号は11小節目のff(フォルテシモ)のみ。
ペダル指示はいっさい書かれていません。
繰り返し記号(%のような記号)が使われています。
冒頭
- ローマ数字のⅩⅣ
- Allegro,2分の2拍子
- pesante;重々しく の上に何かを消した跡が残っています。
3~4小節目 不要な臨時記号を消した?
不要なナチュラルを書き込んでしまったのち,塗りつぶして消したようです。
8小節目 <? >?
8小節目の4拍目です。
クレッシェンドなのか,ディミヌエンドなのか,読み取れません。
出版譜では,クレッシェンドになっているものもあれば,ディミヌエンドになっているものもあります。
クレッシェンドになっている出版譜が多いように思います(きちんと数えたわけではありません)。
ショパンに特徴的な,ディミヌエンドに見える横に長いアクセントである可能性もあります。
しかしこの作品にはアクセントは一度も出てこないので,
この音にだけアクセントがついているのは不自然です。
やはり,クレッシェンドかディミヌエンドのどちらかだと思います。
10~11小節目 cresc.とff
19小節目 最後の音
一番最後のE♭音です。
左手のE♭音は,当初の予定よりも1オクターブ下の音に変更されていることが読み取れます。
ショパン 前奏曲 Op.28-14 演奏上の注意点
譜読みが難しいかも
変ホ短調の作品で,調号はフラットが6つもあります。
さらに,臨時記号がたくさん書かれています。
譜読みに慣れていても,見間違えや勘違いをしやすいのでよく確認する必要があるでしょう。
技術的には難しいところはないと思います。
譜読みさえできれば問題なく演奏できるでしょう。
pesante;重々しく
第14番には,前奏曲集では唯一pesanteが書かれています。
ソナタ第2番Op.35の第4楽章と似ている,と言われることが多いですが,曲想はまったく違います。
速度指示もPrestoではなくてAllegroです。
疾風のように駆け抜けてしまわないように。
どっしりと重々しく,テヌートさせるぐらいの重々しい足取りで演奏します。
ショパンが丁寧に書き込んでいるクレッシェンドやディミヌエンドは大げさなぐらいで良いです。
奇怪なモノが膨らんで,しぼんで,を繰り返しながら,徐々に膨らんでいって,11小節目のff(フォレテシモ)にいたります。
冒頭に強弱記号がない
強弱記号は11小節目にff(フォルテシモ)が書かれているだけです。
冒頭は強弱記号がないため,どれぐらいの音量で弾き始めるのか迷うところかもしれません。
ミクリ版はmf(メゾフォルテ)で,コルトー版はp(ピアノ)になっています。
当サイト管理人はpesanteを意識して大きめの音量,f(フォルテ)で弾き始めることにしています。
ペダル指示がまったくない
ショパンは,ペダル指示をまったく書いていません。
暗にペダルの使用を控えるように指示されています。
まったくペダルなしだと乾いた音になってしまいます。
pesanteの重々しさを表現するために,ペダルを軽く踏むと良いでしょう。
ペダルを深く踏んでしまうと音が混ざって濁ってしまうので気をつけましょう。
クレッシェンドにあわせて,ペダルを少しずつ踏み込んでいき,
ディミヌエンドにあわせて,ペダルを徐々に浅くします。
踏み込む,といっても置くまで踏み込んでしまわないように気をつけましょう。
ショパン 前奏曲 Op.28-14 実際の演奏
当サイト管理人の演奏です。
※当サイト管理人,”林 秀樹”の演奏です。2020年11月25日録音。
◆Op.28-14のみ再生
◆24曲全曲再生リスト
本来,前奏曲集は24曲全曲を通して演奏するべきなのですが,今回は各曲の解説が目的なので,1曲ごとに区切って演奏を公開していきます。
ショパンの意図を忠実に再現しようとしています。
(なかなか難しいですが・・・)
ぜひ,お聴きください!
今回は以上です!